「じゃーん、脱出成功」
「よく来られたな」
「ちょっと大変だったけどね」
「では行くか」
「政宗は“帰る”だけどね」
0:01
時間は昼前までさかのぼる。
何だかんだ言ってこの年末まで忙しかった政宗も、ようやく休みができたので
今日は久々のデート!
……私はちゃんと“昼からで良いよ”って言ったんだけど…
政宗は「かまわん!」って。あ、ちょっと今の似てた?
だから、ちょっとでも長く一緒に居られるな〜なんて浮かれながら
待ち合わせをして、二人で歩き始めて。天気が良いからって
この丘に来たんだけど……もしもし?政宗くーん。
「何だやかましい」
「や、やかましいって…こんな所で寝直さないでよ!」
「今日の良すぎる天気が悪い」
とんだ屁理屈を言い出す彼は草むらの上にごろんと寝転がって
目を閉じてしまった。
だったら、やっぱり待ち合わせを昼からにすれば良かったのに…。
私は軽くため息をついた。
今日は年末だというのに日が照っていて風もなく、いつもと比べると
寒さは随分ましなんだけど。
それでも冬は冬。寒いものは寒い。
「寒くないの?風邪ひくよ」
「別に」
「(うそー…)私は寒いんですけど……」
風邪ひいたら政宗のせいだからね。
そう恨みがましく思いつつもこの場を去ろうとしないのは
やっぱり嬉しいからかな。
久々のデートが。…政宗と一緒に居られるのが。
私って健気…なんて自分に酔っていると急に膝に重みが増した。
視線を落とすと、それは政宗の頭の重みで。
「ちょっと…まさ……ぇえ!?」
「これで寒くはなかろう。わしも快適、一石二鳥だ!」
周りの人の視線が気になって気になって。
意識すると恥ずかしさが一気にこみ上げてきて、身体の内からどっと熱が
あふれ出してきた。
確かに、温かくはなったけど……
上気した顔で政宗を見ると、既に彼は寝息をたてていて、私一人動く事も
できずに空を見上げた。
大きく息を吸って気持ちを落ち着かせると、体温が平常値へと戻っていった。
こんなデートも悪くはないけど…久しぶりなんだし構ってほしいよ…。
「あー…久々にラブラブできると思ったのに…」
「今日の目的は“まったり”だ」
「え!?わっ、起きてたの!?」
「馬鹿め。こんな所で爆睡するわけなかろう!」
仮眠だ仮眠。
そんな言いぐさに何だかなー…と思いつつも政宗の髪にそっと触れると
政宗は膝の上で寝返りをうち、ゆっくりと開かれた目が私を見上げてきた。
「ラブがしたいのか?」
「……だって」
「しても良いぞ」
「え?」
にやり、と悪巧みをするような顔をした政宗が手を伸ばして
私のマフラーを引いてきた。
私の体勢は前屈みになり、政宗の顔が一瞬にしてドアップになって迫ってくる。
…正しくは私の顔が近づいてるんだけど。
防ごうにも、もう間に合わない。
それを悟った私は思いっきり目をつぶった。
ゴツッ。
「〜〜〜ったぁい!!」
「ふふん、いくらわしでもこのような場所ではせぬわ」
「――――もう!信じらんない!!」
ぶつかった…ぶつけられた額を両手で押さえながら政宗を睨みつけると
可笑しそうに笑いながらまた寝返りをうった。
何か言い返したかったが、こんな所でされなくてほっとしているのか
残念なのかが自分でも分からず何も言い返せなかった。
私が黙ると、必然的に会話が無くなり、
私は見る物もないので再び空を仰いでいたのだけど。
急に政宗が飛び起きた。
「さっむ!!」
「だから言ったじゃない……」
起きあがった政宗は自分を抱き込むようにして身体をこすり
暖を得ようとしていた。
…もう、仕方がないなぁ。
「あったかいの、買ってくるね?」
「微糖で頼む」
「はいはい」
いっそブラックでも買ってやろうかな、なんて思ったりもしたんだけど
後が五月蠅いからね…なんて言うのは建て前。
単に、好きな人にそんなことをする事ができないだけ。
惚れた弱みです。はい。
「はい、どうぞ」
「 ん 」
お礼も言わずにプルを開けて飲み始めた。
…まあ、それが政宗なんだけど…なんだか面白くない。
惚れた弱み…をちょっと撤回。
さっきのお返しも含めて少しからかってみることにした。
「そんなに寒いなら、抱きしめてあげようか」
「?」
驚いた顔をしている政宗に、つい笑みがこぼれた。
しかしそれも束の間。
缶コーヒーを飲み干した政宗は視線を私から前へと戻すと、あろうことか
頷いてきたのだ。
「そうしろ」
「え!!?」
「どうした?」
「えっ…いや、その……」
自分で言い出しておいて何だけど…ここで?!
抱きしめるって……どう?後ろから!?で、でも……!
政宗の横顔を見ながらどうしよう…と冷や汗をかいていた私だか、
肩を震わせている政宗を見て我に返った。
寒さで震えている―――のではない。
「くくっ…自分で言い出した事に困っておったら世話ないわ!」
「なっ――――ま、またからかったわね!?」
「馬鹿め」
「ば……政宗のばか!!」
恥ずかしさで居たたまれなくなったので、お腹を抱えて笑っている彼を置いて
立ち上がり、この場を去ろうと思ったのだが政宗がそれを許さなかった。
私の手を掴んで、自分も一緒に立ち上がる。
「待て待て。ただのスキンシップではないか」
「〜〜〜そんなのいらない!」
「わしはしたい!」
ほえ…?……政宗?
いや…まぁ、何と言うか……と歯切れの悪い様子だったが、話を逸らせたいのか
「買い出しに行くぞ!」と先を歩き始めた。
意地悪だけど、今日はどこか素直な政宗が嬉しくて、さっきまでの気分が
一気に晴れていった。少し早足をして彼の横に並ぶ。
……私も、今日は素直になれそう。
「ね。手、繋いでも良い?」
「ふん。そんなものいちいち聞く事でもないわ」
「へへ、そっか」
「ああ。……!まて、。それはいらん」
「?」
差しだしてくれた右手と繋ごうとすると、なぜかストップがかかった。
はじめは何の事を言っているのか分からなかったんだけど…政宗との
手を見比べてみて、ああ、と合点がいった。
「これで良い?」
「聞くな」
手袋をはずした私に少し照れながら頷いた政宗と、手をしっかり繋ぎ合った。
政宗の手はあったかくて、いつも思うんだけど意外と大きくて。
ちゃんと隣に居るんだって安心できた。
………ん?あれ?
「ねぇ、何の買い出し?」
「ん?ああ、何って…」
年越しに決まっておろう?
◇ ◇ ◇
「こんなものか」
「こんなに食べるの?」
政宗がスーパーで買い込んだ物は、一人分にしては多い量だった。
不思議そうに聞く私に「」と帰路についていた足を止めた。
合わせて私も足を止める。
気が付けば、私の家はもうすぐそこだった。
「今年は…わしと越さんか?」
「政宗……?」
じゃあ…あの量は私の分も含めて…?
毎年、初詣は一緒に行っていたけれど……年越しは初めてで。
何だろう…これ。
うれ…しい……嬉しい!
「越……す!一緒に越したい!!」
そう告げると、政宗が本当に嬉しそうに笑うから。
こんな時だけど…やっぱり愛されてるなって。そう思えた。
「あ、だが、門限が……」
「大丈夫!何とかする!!」
らしくなく遠慮がちになっている彼に意気込んでそう言うと
「じゃあ10時にここで待つ」と言いながら頬にキスをしてきた。
私はびっくりして思わず頬を押さえると「誰も見ておらん」って
笑って来た道を帰って行った。
その背中を見送った後、私も浮かれた様子で家へと入った。
「じゃーん、脱出成功」
「よく来られたな」
「ちょっと大変だったけどね」
もう小さな子供じゃないもん。
Vサインを見せて、お互いに笑い合い「では行くか」と
夜道を手を繋いで歩き出した。
「政宗は“帰る”だけどね」
「まあな」
そんな事を言い合って、もう何度も来た事のある政宗の家へと着いた。
一人暮らしだから誰に遠慮することもないんだけど……さすがに
こんな時間に来た事はなかったので、なんだかいけない事をしている気分になって
可笑しかった。
コタツに入って、テレビを見て。
今更緊張もないんだけど……コタツの中で足が触れたりするとドキッとした。
……こういうのを煩悩っていうのかな…。
「…よし、もう蕎麦を作るぞ」
「うん。じゃあ手伝うね」
コタツから出て台所へと向かう政宗の背中を追った。
…同じ事を考えてた?……と、ちょっと赤面。
夜といういつもと違った時間に、少し緊張させられている私たちだけど
一緒にお蕎麦を作って楽しむと緊張なんてすぐに忘れられた。
外ではいつの間にか除夜の鐘が鳴っていて。
私たちは、作ったお蕎麦を食べながら鐘の音とテレビの音を聞いていた。
「百八の煩悩…か」
「煩悩…“心身を悩ますいっさいの欲望”だって」
「ふん……今何時だ?」
「んー、もうすぐ新年」
時計を見ると、秒針と長針が新年を、迎えるために着々と動いていた。
政宗は少し考えるようにしていたが、ぽつりと呟いた。
「10時間…か。今日と一緒に居た時間は」
「だいたい半日かぁ…そんなに居たんだ」
「全然足りんわ」
もっと居たいのだと、彼は言う。
眠いのを押してまで朝から会ったのはそういうわけだったのかと
今更気付いた。
「これではまだまだ今までの分を埋められそうにない」
「政宗」
忙しかった時の事を言っているのだろう。
会える時間がなかなかなくて…デートもろくにできなくて。
「…でも、今日はいっぱい構ってくれたし」
「」
「それに、しばらくは一緒に遊べるんでしょ?」
「ああ」
政宗が髪に触れてきて、それが合図のように私たちは
唇を重ねた。
「これは…煩悩か?」
「…さあ」
こんな煩悩なら持ち越しても良いよね?
え、駄目?
……ごめんなさい神様…もう遅いみたい。
今年最後のキスをして
今年最初のキスをした。
時計の針がすべて重なったのもたった一秒。
静かに二人の新年が明けた。
END
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2121番、リオンちゃんからのリクエストでした☆
…ごめん!休日じゃなくて本当にごめん!!
リク通りに書けよ!って怒ってやって下さい……
リクエストありがとうございました〜♪
2662番も待っててネ★
++ 2005/12/28 美空 ++