馬を走らせているは、顔に雫が数滴あたったのを感じた。
勘違いかもと思ったが、どうやらそうではなく。
次々と冷たいものが降ってきた。
「雨、か……」
雨の夜
そう呟いてつかの間、始めはゆるかった雨脚が一気に強くなってきて。
は慌てて馬を走らせ、木の下に滑り込んだ。
葉が多いのでなんとか雨をしのげるが、それでもやはり完全にとはいかない。
だが、辺りを見回してもこの木以上に雨を防いでくれるようなものは見当たらなく、
少しだけだと我慢することにする。
馬のたてがみを撫でながら「ごめんね」と謝罪する。
甘寧の忠告も聞かずに遠乗りなどに出てきたのが間違いだったのだ。
「よっ。どっか行くのか?」
「ちょっと遠乗りにでもね」
「遠乗り…今日はやめといた方が良いぜ。降ってくる」
「なーに言ってんの!この晴れっぷりでそれはないでしょう」
「や、ホントに。…お前、オレを信用してねぇだろ」
「うん」
「けっ、オレは忠告したぞ!」
出てくる時の会話を思い出して頭を抱える。
甘寧に会ったら平謝りだな……。
こんな状況だが「濡れてでも帰らなければ」とか「ここで一夜があけるかも」などと
思うことはなく、意外にも焦ってはいない自分が居る。
雨脚が、また強くなった。
目を閉じてみると、雨の音とたまに鳴く愛馬の声しか聞こえない。
そのままずっと目を閉じて、柄にもなく雨音に耳を預けて浸っていた。
ふいに、雨音とは違う音が聞こえた気がした。
は自然と笑みを浮かべる。
はっきりとその音が聞こえてくると、それは蹄が水を含んだ地面を蹴る音で。
その音が自分の目の前で止まった。馬が鳴く。
は笑みを浮かべたままゆっくりと瞼をあげた。
「来た」
「…ったくよ、お前の馬鹿さには本当にあきれたぜ」
目の前に現れたのは甘寧で。
持っていた荷物を投げてよこした。
受け取ると、それは雨よけの布で、甘寧はかぶるように指示する。
「来てくれると思った」
「面倒だったけどな」
「よく分かったね、ここ」
なんとなく、だ。
ふいと顔をそらす。
雨なのに、あたたかくなった。
は愛馬にまたがり、甘寧に出発できる事を告げる。
その言葉に甘寧はの顔を見て声をかけた。
「ちゃんとついてこいよ!」
「分かってるわよっ」
雨はいっこうにやむ気配はなかった。
顔にあたる雨が痛くて、あまり目を開けていられなかったが
近くに甘寧が居るという安心感からか辛くはなかった。
なんだかんだ言って、優しい甘寧は時折、振り向いてを確認する。
は心配させないように馬を横につけて走った。
「びしょ濡れ」
「だから言っただろ?!今日は降ってくるって!」
「〜〜それに関しては反省してます……」
「だいたい、どうせ濡れるんだから自分で帰ってこいっての」
「甘寧が来ると思ったんだもん」
雨よけにつかった布を絞りながら甘寧に言う。
来ると思ったから。入れ違いにはなりたくなかったから。
水滴で張り付いた髪を手ぐしでときながら言う。
甘寧はに背を向け、呆れた声を出す。
「行かなかったらどうすんだよ」
「来たじゃん」
「答えになってねぇ…」
怒る気もうせたのか、一つため息をつく甘寧。
そんな彼の体が少し震えた。
「…ごめん」
「あ?それはもう良い――――」
振り向こうとした甘寧の濡れた背中を抱きしめた。
触れあった所がお互いの体温であたたかくなっていく。
「ありがとう」と呟いて背中に軽くキスをした。
そして離れようと、といた腕を甘寧は逆に絡みとった。
視線が絡まり、甘寧はの顔を引き寄せた。互いの額が当たる。
息が、かかるぐらい近い。
「っ――――寒く、ねぇか」
「寒い…ね」
耐えている表情で。押し殺したような声で。
そう聞いてくる甘寧の問いに、は微笑して答えた。
甘寧がの腰に、は甘寧の首に腕を回したのは同時だった。
雨の日
互いの熱を求めて。
END
甘寧夢、第二弾です。短編です!
連載を進めずに、何をやっとるんだって感じですね;
実は、始めこれは凌統のつもりで書き始めたのですが…
凌統のしゃべり方ってイマイチ分からな……;
++美空++ 2005/8/24