好きになるなら年上かな。
そう言っていた頃が嘘のよう。
年上の包容力とか、余裕さとか
理想をいくつも語っていたけど
恋に落ちたのは年下の彼。
あなたの声・私の想い
放課後に慶次を見かけた。
慶次とは家が隣同士で今も結構付き合いがある。
実は同い年なのだが、出席日数が足りないとかで一年留年してしまった。
たしか帰宅部だから一緒に帰ろうかと声をかけようとしたが隣に誰か居るのが見え、
その人は袴をはいていた。手には竹刀を持っていたから剣道部なのだろう。
距離があったので何を話しているのかは分からないが、表情から見て慶次がからかい、その子が怒っている風だった。
しょうがないな、って思っていると二人は別れたようで、慶次の後ろ姿が目に映り、
追いかけようと一歩踏み出したけどそれはすぐに止まってしまった。
その子の表情がさっきとはうって変わって大人びていて、目が離せなくなったから…
それでも慶次を追いかけようと歩き出し、私はすれ違うその子を目で追った。
きっとそれが始まり。
伊達政宗
それが慶次に教えてもらった彼の名前。
所属している部活は剣道部。
一つ年下で、兄と二人暮らし……らしい。
女ってなぜか情報から集めるわよね……そう思いつつも慶次にいろいろ聞き出した女の私は
押せ押せで彼とお近づきに―――なんてできるはずがなく。
ろくにアプローチもできないまま今日まで至ってしまっている。
学年が違うと会う機会も少なく、話す機会なんてゼロに近い。
「そんな事言ってたら他の子に先こされるわよ」
友人のありがたいお言葉。
そんなの分かってはいるけど……どうすれば良いか分からない。
それでも会いたくなるのは恋しさ故か。
「会いたいなら行ってきなさいよ」
友人に半ば強引に背中を押され、気が付けば二年生の教室の近くに立ちつくしていた。
三年生がこんな所で何をしているのかしら……
だんだん恥ずかしくなってきて、さっさと通過してしまおうと俯きがちに歩き始めたのだが
俯いていてはここに来た意味がないなと思い直し、思い切って顔をあげると………居た。
開いている窓の所に肘をかけ、もたれかかりながら兼続と話をしていたのだ。
兼続は慶次とも仲が良く、話をしたことがあったので知っている。
そっか…直江君とも仲が良いんだ…。
新たな発見をしながらも、手で髪を触り、整える仕草をしたあと、鏡を持っていないことに後悔した。
もう少しですれ違う。
髪型、変じゃないかな?あぁ、お化粧直してくれば良かった。
そんな事を思いながら、どうしても直視はできないので視界の端に彼を映すだけに止め、距離を縮めていくのだが緊張で手足の動きがぎこちない。
自然にしようとすればするほど、ぎこちなさが増していくので少しパニックを起こしていた。
だからだろうか。
「伊達政宗!聞いているのか!?」
兼続が少し苛立ったようにかけた声に驚いて思わず振り返ってしまったのだ。
無意識に振り返ったので誰を見ようとか考えていたわけではなかった。
だが、振り返れば隻眼の瞳。
私が彼を見て、彼が私を見ている。
それは勘違いじゃなくて、確かに目が合ったのだが……先に顔を背けたのはきっと私。
どうしよう、どうしよう!目が……っ
思いがけない出来事に、自然と歩くスピードが速くなり、廊下を曲がった。
「ぅおーい!政宗!政宗ぇーー!」
外から慶次の声が聞こえた。
それに返事する伊達君の声も聞こえる。
目が合った上に声まで聞けるなんて……慶次にちょっと感謝。
そんな慶次の家に、夕飯を作りに行くと
「教室まで来ればいいだろう?」
「い、行けるわけないでしょ!」
「この前田慶次をダシにすりゃあ良いって事よ」
慶次はそんな事を笑って言ってのけるけど……それは慶次に悪いと思うわ。
「…そうね、口実に使わせてもらおうかな」
「正直な人だねぇ」
「もうっ、冗談に決まってるでしょ!」
……そう、冗談。冗談のはずだったんだけど。
行く用事ができてしまったの…慶次の教室へ。
友人に「ついて来て!」と頼み込んだのも虚しく、一人で行ってきなさいと断られてしまった。
昨日歩いた廊下を今日もまた歩くのだけど…昨日とは足取りの軽さが違う。
「…そうよ、彼が今教室に居るとは限らないし…こ、こんなに緊張するような事じゃないのよ」
慶次を呼ぶだけなんだから、話しかける必要もないわよね?!そう…そうよ。
自分にそう言い聞かせるが、教室が近づくたびに極度の緊張のせいか胸が苦しくなってきた。
それを落ち着けるためにゆっくりと息を吸って顔を上げると、慶次のクラスを示す札がついに目に入った。
ドアが開いていたので遠目にも探すことはできたのだが、あの目立つ頭が見当たらなくて。
見当たらないならこのまま帰ろうと思った時。
廊下側の位置に彼の……伊達くんの顔を見つけてしまったのだ。
(嘘っ!ちょっ…どうして廊下側に座ってるの!ど、どうしようどうしよう?!)
ぱっと見た限り、慶次は今教室には居ない。
そう、居ないんだから帰れば良いのよ、帰れば。でも……これって話しかけるチャンスじゃない…?
『この前田慶次をダシにすりゃあ良いって事よ』
慶次は教室には居ない。それは分かっている。でも、伊達君は声をかけやすい位置に座っている。
こ、こんな都合の良いことがあって良いの!?
でも……このチャンスを見逃すなんて……
(〜〜慶次、ごめんっ)
私は思いきって一歩踏み出した。
どう声をかけようかな…ああ、何か読んでる……良いかな、邪魔しないかな……
「あの、伊達……君」
「何じゃ。わしは次の小テストに向けて忙しい…」
こ、声が裏返った!しかも忙しいみたい…ここは謝って帰るべきよね!
頭の中で次に言う台詞が次々と出てきて、私は思わず口を滑らした。
言った後で後悔してももう遅い。
「ごめんね。少しで良いんだけど……」
「――――さん」
「ここ、慶次の…クラスよね?慶次、どこに居るか知らないかな…?」
「あいつはいつもフラフラしておるから…」
話を続けてどうするのよ!
もう良いと言おうとしたのだが、口から出たのは別の言葉で。
言ってしまったからには、なんとか不自然にならないように会話を続けようと試みるが
うまく舌が回らずに途切れ途切れになってしまっていた。
伊達君の方も、突然見知らぬ人に話しかけられ戸惑っているのか、言葉が途中で切れていたが
彼の言わんとする事を理解し、「そうよね」と相づちをうった。
どうしようかな……本当にどうしよう。
この後の事なんて考えていない。考えているわけがない。
どうしようか。せっかくだから伝言でも……いや……
「紙と、書くもの。借りても良いかな…」
「?どうぞ」
「―――これを、渡しておいて貰える…?」
彼は一度だけ頷いて見せた。
面倒くさいと思われていたらどうしよう……そう思いながらも笑顔をつくりお礼の言葉を伝えて
早ばやとこの場を立ち去ろうと背を向けた。
「わしの名前!どうしてっ」
伊達君の声が聞こえる。内容からして……私に聞いているの!?
慌てて振り返ると彼の視線はやはり私をとらえていて、何と返そうかと思ったのも束の間
「この間廊下で…直江君がそう呼んでいたから!」
その後慶次も叫んでいたしね。
もっともらしいことを口にし、宜しくと軽く手をあげて別れた。
早く隠れたい。早く、彼の視線が届かない所へ――――
気が付けば屋上の入り口まで駆け上がっていた。
駆けてきた息切れと、緊張の糸が切れたせいで、その場に座り込んでしまった。
話しかけて…しまった。私が、伊達君に。伊達君に………
「どうしよう!!」
別に、どうしようなんて思っているわけでは無いのだが、口につく言葉はそればかりで、思わず両手で顔を覆った。
名前を呼んだ。一度だけだが、本人に向かって名前を呼んだ。
たったそれだけなのに、一生分の勇気を使い果たしたような気がし、更に力が抜けていくのが分かる。
しばらく頭を抱えて座っていたのだが……
「私…名前、名乗って来なかった…」
あれじゃただの変な人だ。
名乗りもせずにペンを借り、面倒な言付けまで頼んで……
そう自己嫌悪に陥っていた私だが、頭に何かが引っかかっていた。
だがそれはチャイムと共にかき消され、それが始業のチャイムだと気付くと私は顔を上げた勢いのまま
教室へと駆け戻っていったのだった。
「、早く席につけ」
「遅れてすみません………」
………
………
…………?
『さん』
「っ――――」
確かに伊達君はそう言った。
名前……私の名前!
なぜ知っているのかなど、この時考える余地が私の頭にはなかった。
嬉しくて。恥ずかしくて。
私は自分の席で小さく頭を抱え込んだ。
自然と緩んでくる口元に、あがりっぱなしの体温に。
恋って良いな、なんて不覚にも思ってしまったのだった。
勇気を出した分だけ何かが返ってくる。
それは良い事かもしれないし、悪い事かもしれない。
それでも前に進みたいと願うから
私はまた勇気を出そうと思う。
(……当分の間は無理だけどね)
そう、当分は慶次に話でも聞いてもらって恋に浸っていよう。
急な変化なんて、いらない。
そうは思っていても、一度何かが起こると連鎖してゆくのが恋であり、
私はこの後、その変化の波に呑まれてゆく事になる。
始まりは、一つのチャイム。
「よう、。今日は夕飯一人分追加で頼むわ」
ドアを開けると、驚いた左目。
隣に立つ大きな男の微笑みが、小憎らしくて戸惑いながらも私は笑った。
一喜一憂 それは恋
名を呼び呼ばれ 華は咲き
重ねる逢瀬に 愛が咲く
手を取り合いて 駆けゆく道の
続く先には 幸の一文字
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1万Hit夢。政宗に恋したい方用でしたー。
よろしければ、対の政宗の恋も読んでやってください ^^
え、続きは?なんてお声があがる・・・かもしれませんが、一応ここで終わりです。
続きを書かれるのも自由、コピペでお持ち帰り・掲載も自由です。。
++ 2006/11/11 美空 ++