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部活が終わり、待っていた人物の顔を見つけると

戸名瀬は軽く手をあげてしらせた。







「お疲れ」

「……戸名瀬、明日は何かあるか?」

「明日?明日は……ケイの餌を買いに行こうかなぁって思ってるけど?」

「なら…付き合ってやる」

「え?」


















   自転車デート

















「それにしてもさ、政宗が付き合ってくれるなんて以外」








戸名瀬の横をゆるやかに景色が通り過ぎてゆく。

前に進む事によって当たる風は、初冬に当たる今、少し肌寒いぐらいだ。

それでも、前で足を動かしている彼よりは風はあたらないのだが。







「何か言ったかあ?」







ペダルをこいでいる彼―――政宗は後ろに乗っている戸名瀬に問い返す。

戸名瀬は政宗の肩に置いていた手に力を入れ、身体を乗り出すようにして声をあげた。







「今日は付き合い良いねって!」

「ああ…最近休みがなかったからな」

「織田先生、スパルタだからねぇ」

「あれはもうスパルタなんて可愛いもんじゃない!じ、地獄だ…」








顧問の先生の名前を出すと、政宗は明らかに身を震わせてそう言った。

そんな政宗の恐れようには苦笑を返すしかできなかった。

彼が言うには、休みなんて今日だけだろうって。

そう嘆いた。







「………」

「………」






それからしばらくは無言だった。

デート中に――そういえばデートになるんだなと戸名瀬は今更気づく――無言が続くなんて不味いと

思われるかもしれないが、これが私たちのスタイルなのだ。

政宗となら、無言でも苦痛にならない。

彼もそうなのだろう。

無機質な自転車の音だけが二人の間にある。

そんな中、ふと戸名瀬が思いついたように聞いた。








「あれ…でもそんな貴重な休みにつき合わせちゃって良かったの?」








今度はちゃんと聞こえたようで、政宗は急ブレーキをかけた。

この自転車(実は私のママチャリ)は結構使っているが、あの自転車特有の

ブレーキ音はまだ鳴らないでいるようだ。

と、戸名瀬は政宗の背中に顔をぶつけながらそんな事を思っていると

政宗が首をひねって後ろを向いてきた。なにやら少し怒っているようで。








「おまっ…分からんのか?!」

「え?」







何が?というように聞き返すと、政宗は拗ねたようにふいっと前に向き直ってしまった。

そして荒々しく自転車が進みだす。

ねえ、何が?ともう一度聞くと政宗の耳が赤くなったのに気付いた。











「お前と居たいからに決まっておろうが!!」











言わせるなっ


ずっと部活で構っていなかったから、とも彼の言葉で続けられた。

言われた戸名瀬はしばらく呆然としていたが、じわじわと頬の辺りが熱くなっていき

肩に手を置いたまま額を背中に当てた。

目をしっかり閉じ、すぐに緩んでしまいそうな口元を必死で締めてこらえる。









「~~今のは不意打ち!!」

「―――頼むからこれくらい気づけ!」










戸名瀬は嬉しいやら恥ずかしいやらで背中を叩いた。

政宗は照れ隠しなのか、半ばやけくそに叫ぶ。

あんなに冷たいと思った風が、今はとても気持ちよく感じた。


そんな二人を乗せた自転車は目当ての店へと進んでいくのだった。





















「って、ここはどう見ても本屋ではないか!」

「いや、自転車をこいでたのは政宗だよ」

「曲がれと言ったのはお前だ戸名瀬…」







まぁ良いじゃない。先に餌を買うと荷物になるしね。



そう言い聞かせ、さっそく店内を歩き回る。

はぁ、とため息をついていた政宗だが、足はお目当ての書棚へと向かっていた。

そんな彼を見て戸名瀬は小さく笑う。

政宗が、意外にも本好きなのは知っている。




それからどのくらい本屋に居ただろうか。

お腹の虫が鳴きそうなので政宗の姿を探すと、

椅子に座って何やら熱心に読みふけっていた。

戸名瀬は微笑しながらそんな彼に近づくと

それに気付いた政宗は読んでいた本を閉じ、元の場所へと戻した。







「良いの?読みかけで」

「良い。それに腹が減ったわ」

「んー、じゃあマックでいい?」

「ああ、マクドで良い」









さらっと訂正されたファーストフード店の呼び方に戸名瀬の片眉が上がった。


マックでしょ。

いいやマクドだ。


そんなちょっとした言い合いが本屋を出るまで交わされる。

こんな事はしょっちゅうで、最終はどっちでもいいやと笑い合って終わるのだ。

そんな子供っぽいやり取りが、何より好きだった。



二人乗りでファーストフード店につき、政宗が自転車の鍵を抜くと戸名瀬は手を差しだした。

政宗には戸名瀬の意図が分からない。







「…なんだ?」

「手、繋ごうよ」

「なっ…す、ぐそこではないか!!」

「だって自転車に乗ってると繋げないじゃん」

「だからって―――!!」

「今日は私に付き合ってくれるんでしょ?」







そんな事まで付き合うつもりはないわ!



と、戸名瀬の問いにそっぽを向きながら答える政宗の手が戸名瀬の手を握った。





「!!――――っ」

「い、行くぞ!」

「う、うんっ」




言葉とは裏腹な行動をとった政宗に、戸名瀬は危うく「好き」と口を

滑らしそうになった。どうやら不意打ちの行動に弱いようだ。

しかし、さすがにそれは恥ずかしく、思いとどまった自分を褒めながら照れ隠しに

政宗の手を握り返した。自然、それは指を組む形となる。

二人はやや恥ずかしげに店の中へと入っていくと「いらっしゃいませ」と声がする。

その店員の視線が、繋がれた手に注がれているような気がしてならなかったが

それでも政宗は手を離さない。

たったそれだけの事が、戸名瀬には嬉しかった。












「じゃーん!期間限定品です!」

「この限定物好きめ」

「政宗はいつもそれだよね」

「わしはこれしか喰わん」








そう言って包み紙を開き、いつものメニューを頬ばる。

戸名瀬も同じように包み紙を開き、それを政宗の前へと突き出した。








「ちょっとは違う味にも挑戦したら?」

「構わん!」

「一口食べてみなよ」








ほらほら、と更にハンバーガーを突き出してくる戸名瀬に負けて

そこまで言うなら食べてやろうというように、政宗は戸名瀬の手元にある

ハンバーガーをかじった。









「どう?」

「ん、美味い」

「良かった」







戸名瀬は満足そうに笑って食べ始める。

ほんの少し遅れて、政宗の動きが止まった。








戸名瀬…わしに味見をさせたな!?」

「そんなことに気付いても楽しくないよ政宗?」

「こ…んのっ」

「あっちょっとそれ私の!!」

「はっ!馬鹿め!」








繰り広げられるポテトの取り合い。

そんな事で騒いでいたのだが、公共の場である事を思い出し…というか

店内にいた他の客の視線が痛くて、そそくさと店を後にしたのだった。















「ねー、これからどこへ行くの?」

「さぁな」

「さあって……あ!じゃあ、あそこ!!」









戸名瀬が言ったのはゲームセンターで。

例によって手を繋いだまま店に入り、何かを探しているのか

首を巡らしている。

そして目当ての物が見つかったのか、戸名瀬は遊ぶために手を離そうとする

政宗の手を引いて奧へと進んでいった。







「こっこれは……!」

「ね、一緒に撮ろ?」

「…プリクラ……」







勘弁しろ。


と踵を返した政宗を戸名瀬は逃がさなかった。

引っ張り込むようにしてカーテンの中へ連れ込み、さっとお金を投入する。

そして、なんでも良いよね、と撮影までの操作をやってのけた。










「ほらほら政宗もポーズ決めて!」

「………」








政宗がぎこちなく笑う。

シャッター音が鳴り、とれた写真が画面に映し出された。

政宗は終わったものと思いほっと胸をなで下ろしたのだが。










「ほら次くるよ」

「は?!」

「あははっ変な顔!」

「~~次はお前だっ」









次々と画面に映し出されてくる写真に二人とも笑い合う。

残り回数が少なくなると、戸名瀬は髪や服装を正して言った。







「ちゃんとカップルっぽく撮ろうよ」

「ん…」






カップルっぽく。

言った本人もどうすればそう見えるのか分からなかったが

友人に見せてもらったプリクラを思い出してみる。

それを真似るかのように戸名瀬は政宗との間隔を埋め、笑顔を作った。

しかし政宗はどうして良いか分からないままで、手が宙をさまよっていた。

戸名瀬はそんな彼の様子に「くっついたまま撮ってくれるだけでも良い方か」と思い、

笑顔のまま撮影されるのを待っていたのだが。

腰に、そっと手が添えられたのが感覚で分かった。

確かめる前にシャッター音が鳴る。

その写真が映し出され、戸名瀬は…いや政宗も思わず赤くなった。

あまりにも仲良さげに映っていたから。

ぱっと見れば戸名瀬が甘えているようにも見えてしまう。

戸名瀬は動揺しながらも赤いボタンを押した。











「ら、ラスト一枚だって」

「あ、ああ……」

「背景、変えるね!」









目を合わせて居られないのか、戸名瀬は最後の操作をするため

政宗に背を向けた。









「つ、次のポーズ考えといてね」








何かを言わなければ、と焦った頭が出してきた言葉がこれだった。

次も何かを期待しているかのような自分の言葉に後悔。

政宗は何も言わなかった。何も言わないから、余計に恥ずかしくなった。



そんな戸名瀬が操作を終わらせ、撮影位置まで戻ってきたとき

後ろから腕が回ってきた。

それは、抱きしめるというよりは包みこむような包容だった。

時間が止まったかと思った。…いや、止まってしまえと願った。

でもそれは確実に流れていて。

最後のシャッターが切られて響いた。

そして、機械が次の指示を出しているが二人は動かなかった。









「…落書き時間、なくなっちゃう」

「…もう少し」








今日、一番他人の体温に触れていたかったのは政宗の方なのかもしれない。


過酷な練習。

迫ってくる試合の日。


文句を言いながらも繋いでくれた手や今の行動から

そんな事を思った戸名瀬は、首元に回っている彼の腕に頭を載せた。








「とりあえず、出よう?」

「…ああ」







カーテンから出て落書きスペースに回ってみるが、やはり時間切れで。

プリントされたシールを持って、二人はゲームセンターを後にした。


二人乗りの自転車にまた無言が訪れる。

それは行きの無言とはまた違っていて。












「…何が怖いの?」









つい、こんな言葉が口から出てしまった。

政宗がブレーキをかける。

前のめりになるほども強くなかったのに。行きの急ブレーキでは何ともなかったのに。

自転車のブレーキが短い悲鳴を上げた。まるで彼の心内を代弁したかのように。











「怖くは、ない」











…いや、怖いのかもしれない。

政宗は振り向かずにそう言った。












「練習を終えた後、時々思う事がある」



「これで勝てなかったらどうするのだろうと」



「これで負けたら…今までの自分がなくなりそうで」










淡々と政宗は胸の内を語った。

表情は見えないが…背中が、泣いていた。










「何よりも…戸名瀬が離れていってしまいそうで怖い」

「私……?」










聞き返すと彼は一度頷いた。

戸名瀬には分からない。なぜ政宗がそう思うのかが。








「お前との時間を潰し、練習に当てて。それでもし負けたら―――」








そう思うと怖かった。

離したくなかったんだ。


告げられた戸名瀬は眉を寄せた。

政宗は時々考えが極端になりすぎると思う。良い方にも、悪い方にも。

戸名瀬は背中に軽く頭突きをした。








「負ける話なんて聞きたくない」







今度は戸名瀬が後ろから抱きしめた。








「私がどれだけ政宗の事が好きか知ってる?」



「何かさ、もう自分でも分からないぐらい政宗の存在が大きくてさ」



「笑っちゃうんだけど…前世からの縁なのかなって。…ありえないんだけど」








政宗が笑わないから自分で小さく笑った。








「あー…だから、何が言いたいかっていうと…」






それくらいで離れていくようなら、部活を優先された時点で別れてるって事!


分かった?と背中越しに聞くと、返事の代わりに腰に回していた手を握ってくれた。

戸名瀬は安心からほっと息をついた。

政宗は何も言わず再度自転車を発進させた。

きっと照れくさいのだなと戸名瀬は肩を揺らせて笑う。

そんな戸名瀬に政宗はわざと振動をつくり、痛がる戸名瀬を笑い返した。









戸名瀬、わしも前世からの縁だと思っているぞ!」








風に乗って、政宗の言葉が届いた。

戸名瀬は「それじゃ仲が良いのも頷けるね」と

鞄から取り出したシールをみて微笑んだ。













離したくない

離したくない

来世でもまた一緒に居たいから



























「…おい、餌は?」

「あ゛」
























   END












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1818番:戸名瀬サマのリクエストでした~~☆

徒歩にすれば良いものの、管理人が田舎者ですので自転車;
「ジテコ is bicycle」 です(暇な方は和歌山弁のCDを探してみましょう/笑)
あ、ちなみに管理人は「マック」派←聞いてない

政宗は剣道部。顧問は信長センセイ(え)
ライバルは幸村で(他校)幸村の顧問は明智センセイ。。
なんてね(笑)

内容と関係ないあとがきでスミマセン;
戸名瀬サマ、リクエストありがとうございました(≧∀≦)
妻子有り夢も引き続きお待ち下さいませ☆★


                           ++ 2005/11/9 美空 ++