「おっと、着いた」





オレは家を見つけると、飛行機を停止させカプセルに戻した。

まわりが山だけに、都会とは空気が違うなと思う。

扉の前に立ち、手にしていた本の数を数え直してノックした。

扉ごしに「はーい」という声が聞こえる。

そしてすぐに扉が開かれた。





「あらトランクス君、いらっしゃい」

「こんにちはさん」













   HOPE













「悟飯さんいますか?」

「ちょっとまってね。悟飯くーん!トランクス君来たわよー?」

「こっちまできてもらってー」





さんの問いかけに、家の奧から返事が返ってきた。

それを聞いたさんがオレの方に振り返る。





「だそうよ?どうぞ入って」




笑ってそう言い、家の中に招く。

お邪魔しますと一言いって悟飯さんが居る所まで歩いていった。

悟飯さんは本棚から一冊とって中を見ては、また戻しと本を探しているようだった。




「悟飯さんこんにちは」

「よう、よくきたな」

「お借りしていた本を返しにきたのと、また借りていってもいいですか?」

「いいぞ〜何でも持っていってくれ」




気前よくそういってくれたので、新たに本を借りるために本棚を見てみる。

昔から本が多いなとは思っていたが、学者になってから一層増えたようだ。

難しい本などが並んでいて、好奇心から一冊開いてみたが、すぐに閉じた。

自分に合った本を探すために別の本棚に移動した。

その際に何気なくさんの様子を見てみた。と同時に彼女が声をあげた。






「あった!悟飯君、この本だっ」

「お、よかった〜見つかって」





これでしょう?と本を開いて見せるさんと、これこれ!と嬉しそうに笑い

よかったと一息ついた悟飯さんは無意識に左手で頭をさわった。

そんな二人の様子から目をそらそうとしたが、光る指輪を見つけてしまった。

複雑な想いが体中を渦巻く。目を無理矢理そらすと今度はさんが視界に入った。

彼女もまた彼の指輪を見ているようで。いっそう胸が痛くなった。

さんの指には―――――





「ただいまー」




高い声と共に扉が開き、ハッと意識がそれた。

声の主を見てみると…いや、見なくても分かったが反射的に顔をむけてしまうのだ。

その人はやはりビーデルさんで。

紙袋いっぱいの食材をもって入ってきた。




「あ、おかえりビーデルさん」

「おかえり」

「今日は暑いわね〜…あら?いらっしゃいトランクス君」

「お邪魔してます」





紙袋を机に置き、中身を出していくビーデルさんの指から指輪を探した。

しっかりとはめられたそれは、先ほど見た悟飯さんのと同じ物。

そう、ビーデルさんは今悟飯さんと結婚してここに居る。

さんの方は、同じ学者である悟飯さんと今回同じ研究をしているから

毎日ここに居るのだった。

オレは視線をさんに移し、いつもどおりにしている彼女を見て本棚に向き直った。



さんは悟飯さんが好きだ。



オレは小さい頃にそれを察し、それからずっと見てきた。

悟飯さんがさんではなく、ビーデルさんとつきあい始めた時も、

結婚した時も。

決して表には出さない強がりな彼女を、ずっと見てきた。

ずっと胸が痛かった。



オレは、さんが好きだから。



初めて会ったのはオレがまだ小さい時で、三人がハイスクールに通っていた頃だった。

その時すでにさんの視線の先には悟飯さんが居た。

最初は、悟飯さんってモテるな〜と面白半分で見ていたのだけど。

いつからだったろうか。強がってる彼女を見ているのがつらくて。

自分が笑顔にしてあげたいと思うようになって。

自分を見て欲しいと…願うようになったのは。

でも、オレとさんは年がかなり離れていたし、オレは子供で。

何をしてあげたらいいのか、何ができるのか分からなくて。

分からないうちに、悟飯さんは結婚してしまった。

式の最中、さんは微笑んでいたけれど。

それがなんだかとても悲しくて、式が終わった時、彼女の傍でオレが泣いてしまった。

彼女はオロオロしていたが、屈んでオレを抱きしめ、優しく背中をたたいてくれた。

この人が本当に好きだ、と子供心に思った日だった。















「……ス君、トランクス君?」

「えっ?!あ、はい!」




ハッとしてあわてて振り返ると、さんが立っていた。





「トランクス君は何か食べた?」

「えっ…あ、いいえ」





質問の意図が分からなかったが、そう答えると彼女は笑って

じゃあ食べに行こう!と言ってきた。






「久しぶりだし、どう?」

「あ、はい」

「それだったらもトランクス君も食べていけば?」






ビーデルさんが料理の手を止めて俺たちに問う。

傍らで悟飯さんがお皿を出していた。

オレはチラッとさんを伺った。





「ううん、そこまで迷惑かけられないから」

「一人や二人増えたって一緒なのに」

「ありがと。とりあえず今日は二人で食べてくるよ」





行こっか、と二人で孫家を後にした。





 









   ◇ ◇ ◇









「何でも食べてね!奢るから」





ニコニコしてやけに気前の良いさんにオレはメニューを見ながら聞いた。

…いや、そうだと確信していた事を言った。






「それは口実に利用して連れてきたからですか?」

「え?!」

さん、悟飯さんが好きだから」





とりあえず今日は、と言いつつ、ずっと一緒には食べないんでしょう?

少しメニューから視線をはずし、目の前に座っているさんをうかがった。

目を大きくして驚いている風だったが、苦笑を交えた顔になった。





「…やっぱり知ってたんだ」

「分かりますよ」



口だけで笑ってそう答えた。

でもきっと、分かるのはオレぐらいだと思う。あと母さんとか。





「そっか……駄目だって分かってるけどさ、結構たつし――――」





言いかけたところでウェイトレスが注文を聞きにきたので、さんは言葉を切った。

とりあえず注文をしているさんを見ながらさっきの言葉を頭に浮かべていた。

なにが「結構たつ」のか、言われなくても分かる。


注文を言い終えた後は、二人とも無言だった。

話を戻すのもなんだかためらえて、でも他の話をしようにも微妙な雰囲気だったから

どちらも口を開けずにいた。

そこに料理が運ばれてきて、少しほっとした。きっとさんも。





「あ、さん、それ美味しいですよ?」

「え?」

「前に来た時食べましたから」

「ふ〜ん……あ、彼女と?」





ニヤニヤとからかい口調で聞いてくる彼女。





「まさか!悟天と、学校の友達とです」





笑って言おうとして、失敗した。

それを察したのか「…そう」とだけ言って、それ以上は聞いてこなかった。




「あ、ほんとだ美味しい!」

「でしょう?こっちも美味しいですよ」

「そういえばさ、この前ね―――――」





他愛ない話をたくさんした。

悟空さんとチチさんのことや、研究のこと。買い物での出来事や料理自慢。

時折オレが学校での出来事や悟天達と遊んだ時のこと、両親の様子などを

話したが、さんの方がよく話していて、オレは聞き手にまわっていた。

彼女の話に相づちをうち、時には声に出して笑い。

笑ったり怒ったり。彼女のよく変わる表情をただ見ていた。


そんな中でも気づいていた。

悟飯さんとビーデルさんの話題が出てこないことを。

出さないようにしていることを。

だからオレも二人の話題はふらなかった。

恋人とかの恋愛話もしなかった。

たぶん、彼女は知っているから。オレの―――――









話がはずんで楽しかったが、いつまでも店に居座るわけにもいかず、店を後にした。

結局、本当にさんが奢ってくれて。

払うつもりだったのを止められて、なんだか複雑な気分になった。

せめて、割り勘ぐらいさせて欲しかった。




「楽しかった〜!こんなに楽しい食事って久々!」




少し前を歩いているさん。

そう言ってもらえて嬉しかった。

嬉しくて、自然と出てきた言葉を前を歩いている彼女にかけた。





「何なら毎日でも付き合いますよ?」





オレの言葉に歩くのをピタッとやめて振り返った。

そんなさんに笑って続ける。




「オレも結構たつんですよ?」

「……うん、知ってた」

「だと思いました」




さんが悟飯さんを好きになって…オレがさんを好きになって結構たつ。

もう何年になるだろうか。二桁に近いと思う。

お互い、気づかない方がおかしいだろう。

オレは歩を進めてさんに近づいた。




「オレの初恋、さんですよ」

「……うん」

「あの頃は、どうしたらさんが笑ってくれるだろう、オレを見てくれるんだろう、
 そんなことばかり考えていて……はやく大きくなりたかった」




はやく大人になりたかった。そう続けた。

机を挟んでではなく、本当に目の前にさんが居る。

彼女は少しうつむいていて、表情がよく見えなかった。

それでも、言い出したら止まらなくなって。

困らせるだけだと頭では分かっていても、言葉を止めることはできなかった。





「背が追いついた時はすごく嬉しかったんですよ?やった!って、すごく喜んだ」

「それでも…私からみたら子供だよ」

「うん。なんでオレもっとはやく生まれなかったんだろうって思った」

「…どうして諦めなかったの?私は悟飯君が好きって気づいてたでしょ?」

「それをさん、あなたが聞きますか?」

「っ〜〜馬鹿じゃないの?!諦めたらいいのにっ…諦めたら……」





私も、馬鹿だね。





「…ううん、私が馬鹿なんだ。私の方は諦めなくちゃいけないのに…
 トランクス君は…何も悪くないね」




ごめんね?ずっと気づいていたのに、それに答えてあげなくて。



彼女はここでも笑った。

オレが欲しいのはこんな笑顔じゃなくて。




オレにまで強がらなくていい。


そう言ってオレはさんを抱きしめた。

驚いたのだろうさんは「トランクス君?!」と離れようとするが、

オレは力を緩めなかった。





「オレ、待ちますから。さんが悟飯さんを諦められるまで待ちますから」

「そんな…ずっとずっと好きだったんだよ?!簡単に諦められるわけないじゃない…」

「オレだってそうです」

「諦めるのに、好きだった分だけかかるかもしれないじゃない!」

「待ちます。何年でも何十年でも」






泣きたくなったら泣いて下さい。

愚痴をこぼしたくなったらいつでも呼んで下さい。

オレ、ずっと傍にいますから。

オレはさんより先に死ぬことはありません。

ずっと、傍で守ります。







「……なによ…格好いいこと言って…」

さん?」

「でも……ありがと。好きになってくれて」

「!!」




涙をためた彼女がオレを見上げた。

かと思うと何かが頬をかすめて――――





「―――っさん?!」





一瞬の出来事だった。

さんがすぐに離れて涙を拭い、少し照れたように笑っていた。




「帰ろっか」

「〜〜〜っ」




突然の出来事にオレはしばらく頬を押さえたまま動けなかった。

熱が顔に集中しているのが分かり、手のひらが熱くてしょうがなかった。

そして、少し遠くから「トランクス君〜?」と呼ぶ声にやっと我に返り、

慌てて彼女の姿を追いかけた。






まだまだ続く片想い。

それでも

これからはオレのことも考えてくれる分

今までよりは、希望がある。




その後俺たちがどうなったのかは―――――秘密です!







   END






初トランクス!
彼、大好きですv 声とか(え)

ドラゴンボールは大好きなので、これからも増やしていきたいと
思っております☆


                          ++美空++