「おい」

「………」

!」

「んーちょっと待って、もう少しで解けそ……」

「なぜわしらは勉強をしとるんだ!!」










八畳間のの部屋にわしの声が響き渡った。



















   いつかきっと


















「なんでって……テスト中だから?」

「そうだが…違う!何か違うぞっ」

「違わない、違わない。分からない所があったら聞いてみ?先輩が教えてあげよう」










分からん。

なぜわしは彼女の家に来てまで勉強しておるのだ……








「だからテスト発表中――――」

「だーーーっ!!それは分かっておる!」

「言ってる事が無茶苦茶だよ政宗」









わしは頭を抱え込んだが、だからと言ってこの状況が変わるはずもなく。

わしが言いたいのはっ!もっとこう―――







「恋人っぽい事を―――」

「恋人っぽい事?キスでもしたいの?」

「〜〜〜話が飛躍しすぎだ!!」








しかも“でも”とはなんだ!?

余裕か!?余裕なのかこの野郎!!

一つ歳が違うだけでこの差はなんだ!なんだってなんだーーっ

混乱しきって机に伏してしまったわしの頭をがつついてきた。







「政宗、問題その1。『I love you 』の意味は?」

「〜〜〜馬鹿にしておるのか!?“愛している”ぐらい分かるわっ」

「じゃあ問題その2。I とは誰で、you は誰でしょう」






質問の意図がさっぱり分からない。

眉を寄せてを見たが、笑っているだけだった。

日本男児には恥ずかしい内容の質問ではあったが、わしの口はご丁寧に

答えを返していた。

これは、きっとわしの希望。









「 I はで、you は………わし」

「ブー。I は政宗でーす」

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

「 you が私」









こ、こいつ……!!

期待したわしが馬鹿であった!

いいようにからかわれているわしは、真っ赤になっているであろう熱い頬を

両手で隠した。

そんなわしに、は更に追い打ちをかけてくる。







「ほら政宗。英語は口に出して覚えなきゃ」

「おまっ…!わしをどれだけ阿呆と思っておるのだ!」

「良いから、良いから」








良くないわ!


わしは机に頬をつけ、ぶっきらぼうに「アイラブユー」と片仮名を読むようにして言った。

早く終われ。







「発音が駄目」

「………I love you …」

「ちゃんと目を見て言わないと」

「だーーーもうっ!! I love you と言うておるではないか!」





わしの堪忍袋の緒が切れた。

拳で机を叩きつけ「これで良いだろ!?」と息を切らし、ここまで付き合ってやった

わしに感謝しろ、というようにを見た。

向かいに座っているは驚くでもなく、逆にはにかんでいて。







「 Me,too 」

「……は…?」

「なーんてね」








わしはきっと狐につままれたような顔をしていただろう。

そしてそのまま脱力して背中からカーペットの上に倒れ込んだ。

額に腕を乗せると、だんだん笑いがこみ上げてきて止まらなくなった。








「はは……中一レベル……」

「習うのはね。言うのは中学生じゃ無理でしょ」

「高校生でも無理だろ……」








どっと疲れた気がする。

こうやって年上の彼女はわしを振り回す。

わしばかり焦って、照れて、怒って。

まるでわしばっかりが好きでいるような、そんな錯覚すら覚えてしまう。

……まあ、それはすぐに消えるのだが。








「政宗、お昼何が良い?」

「オムライス」

「了解」







の家に来ると、大抵昼はが作ってくれる。

弟の話では(こいつとわしは同い年)めったに作らないらしく、こうやって

自分からすすんでキッチンに立つのはわしが来た時がほとんどのようだ。

それだけの話なのに嬉しく思っているわしがいて、本当に振り回されてばかりだ。








「はい。ね、上手くなったと思わない?」

「まあな」

「ふふ。人間、努力だよ政宗君」







そう笑うは「頂きます」と告げ、それに習ってわしも同時に

スプーンを入れた。







「おいしー」

「…いや、美味いが…自分で言うか?」

「自分で褒めなきゃどうするのよ」






政宗は何も言ってくれないし?


じーっとわしを見てくるに負け、わしは皿に視線を落としながら言った。







「…美味い……です」






なぜ敬語なんだ!


こういうのはサラッと言ってしまえば良いのに、と思うのだが

たったそれだけの事が難しく、恥ずかしくて。

視線を下げたまま上げられず、居たたまれなくなって思った。

頼むから何か続けてくれ!










「………」

「………」

「…、会話を止めるな……」

「ちょっと余韻に浸ってました」

「〜〜〜馬鹿め!」










だって、嬉しいもん。

はケチャップを取るために冷蔵庫の所まで足を運びながら続けた。







「政宗にそう言って貰えるように念をこめて作ったからね」

「念って言うな」

「愛情?」

「聞くな!」






わし達は軽く笑いながらケチャップで名前を書いた。

…いや、書いたのはだが。

「まさむね」と書かれたオムライスはの手元にあって。

再度手を合わせながらは言った。








「まさむね、美味しく頂きまーす」

「ゲホッ……妙な言い回しをするな!馬鹿め!」

「何を考えたのかなー男の子」







うるさい、との額を指で弾いてやった。


食べ終わると、わし達は並んで洗い場に立つ。

洗い物は一緒にする。わしが言い始めた事だった。







「見て、シャボン玉完成」

「うわっ……」

「ぷっ、ピエロみたいよ政宗?」







の作ったシャボン玉がわしの鼻にとまった。

笑っているに洗い物の手を止め、指先の水滴を弾き飛ばすと

さらにシャボン玉を作ってきたので、こちらもシャボン玉に切り替える。

大きさを競っていると、大きいのができたと喜んだの肘が皿にあたって

落ちそうになった。







「あ!!」

「っぶなかったな…」

「―――ありがとう、政宗」

「…遊ぶ前に先に洗ってしまうか」

「そうだね」






























「さて。何する?」

「勉強は嫌だからな」

「じゃあ、これ見よっか」









勉強は嫌だと言い張ると、はレンタルしてきたDVDを取り出し

こっちの方がテレビが大きいからと居間で観る事になった。

……観る事になったのは良いが―――――










「…おい

「………」

「…信じられん…寝るか普通……!」









DVDを観ていると肩に重さが加わってきて。

何事だと視線を向けるとの頭だった。

おい、と呼びかけつつ頭を揺するが起きる気配もなくて、

わしは動く事もできずに目の前のテレビ画面をただ見ている事しかできなかった。

……まあ、アレだ。

下手にの寝顔など見ると――――









「…よからぬ事を考えてしまうからな」

「たとえば?」

「例えば………って!」








声に驚いて首を横に向けると、半開きな目を眠そうにこすっている

欠伸まじりで謝ってきた。









「ごめん…ちょっと意識飛んじゃった……」

「眠いのなら寝てろ!起きなくとも良いわ!」

「うんー…終わったら起こして……」








そう言ったはすぐに意識が落ちたようで、わしの座っている反対の方へと体を倒した。


終わったら起こして。


そう言われても………もうすぐ終わるのだが……

時間を稼いでやるために英語だらけのスタッフロールを最後まで観て、

特典映像やメイキングも全て観て。

何も観るものがなくなったので、仕方なくDVDを取り出してケースに戻した。

さて。起こすべきか、起こさぬべきか……









「…?」

「………んー……」

「………」








よからぬ事が頭をよぎった。


………これぐらい、良いであろう?

わしはの髪をそっとかき上げて顔を近づけた。

無防備に寝ているが悪い。

そう自分を正当化しながらキスをした。








、起きろ……」







そう言いながらもキスを続け、それは頬や瞼へと移っていった。

の目がゆっくりと開かれ、体を起こすと「んー…」とまだ少し寝ぼけた

状態で抱きついてきた。







「…キスして」

「…珍しいこともあるもんだ」







年上だからだろうか。あまり甘えてはこないのねだり事に答えるように

また口付けた。少し長めにして離すと再びが口を開く。







「キスして良い?」

「は――――!」








答えるよりもさきに唇を塞がれて、そのまま後ろへと倒されてしまった。

よくきいたソファのクッションが揺れる中、わしはを見上げる格好となり、

にっこりと笑った彼女は先ほどのわしのように、頬や額へと唇を落としてきた。

これは男として……








「立場が逆ではないか…?」

「そう?」

「やはり、わしとしては――――」

「わっ」

「こっちの方が良いぞ」








わしはと位置を変え、今度はわしが見下ろす体勢となった。

まるで映画のように口づけを繰り返したわしは、の首筋へと顔を近づけて

赤い痕をつける。が腕を回してきた所で―――――時計が鳴った。

がじっと見上げ、目で「どうするの」と聞いてきたので、わしは目を閉じて考え、

迷いで頭を掻いたが……体起こした。








「時間切れ」

「えっやだっ」

「や、だ……って……」







予想外の言葉に驚いてを見ると彼女も自分の言葉に驚いた顔をしていた。

そして慌てて「や、嘘うそ!」と手を振っていたが、恥ずかしくなったのだろうか、

急に立ち上がって








「玄関まで送るね」

「あ、ああ……」








引き止めてなんかいない、と言いたげな態度で玄関まで出てきた

表情がいつも通りになっていて、わしとしては少し面白くなかった。

今日ほど当番制をきめた兄を恨めしく思うことはない。






「せっかくが―――」

「わーー!!良いよ!もう言わないでっ!……っと」

「お、おい!危な………!」






玄関の段差からバランスを崩したを受け止めた。

ごめん…と体勢を整えようとしているを強く抱きしめて









「…I がわしで you が、か」

「…違うよ。I が私で you が政宗」

「どっちだよ」

「どっちもじゃない?」








そうかもな、とわし達は笑った。


簡単に言える言葉じゃないから

今すぐには無理でも、いつかは伝えたいと。

そう、思う。

いつかきっと。












  END






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2424番、首里様より政宗夢のリクエストでした☆

なんか、馬鹿っぽい話ですが(!?)遅くなってしまってすみません!
よろしければ貰ってやってください★
ちなみに、政宗の兄は小十郎で、弟は成実…(笑)←好きだね!出すの

リクエスト、ありがとうございました(≧∀≦)


                 ++ 2006/1/25 美空 ++