いつのまに眠ってしまったのだろうか。
夢見が悪くて目を覚ましたのだが、起きてみると思い出せないでいた。
暑いわけじゃないのに汗がまとわりついていて気持ち悪い。
そこに優しい風が吹きだして、少しは気分もましになった。
風通しの良い場所。そう、ここは――――
「変なところで寝るなよ…落ちるぞ」
「鈴の興覇殿」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
下の方から声がかかる。声の主を確認して自分がいる場所を思い出す。
外に出て気持ちよかったから寝ころぶと、ついウトウトと昼寝をしてしまったらしい。
屋根の上で。
鏡 [3]
「もうこんなに時間がたったのか…じゃあそろそろ降ります」
「あ?」
「興覇殿っ!」
何か言ったか?と上を見上げると、ちょうどがジャンプしたところで。
慌てて受け止める体勢をとる甘寧。
が…それはの伸ばされた右足によって倒された。
つまり、蹴りをいれられたのだ。
「邪魔だからどいてください」
「遅ぇっつーの!!」
蹴られた胸を押さえせき込みながら睨んでくる甘寧など気にもとめず着地し、
まだブツブツ言っている側で足を見る。
トントンとつま先で地面を叩くと少し痛みがはしる。
痛みに少し顔を歪めた。
「鈴の」
「そんな某錬金術マンガの偉いさんみたいな呼び方やめろ」
「?何言ってんですか。…それはさておき、おぶってくれませんか?」
「はぁぁあ?!」
「そして執務室まで連れて行ってほしいな」
お前、俺のこと何だと思ってんだよ!などと言いつつも、結局はを背負ってあげる甘寧だった。
鈴の興覇殿っておっとこまえ〜と背中でほめるにお前がやれっつったんだろ!と返す甘寧。
「ほれ、行くぞ」
「お願いします!」
歩いている最中、知っている顔とすれ違うたびに甘寧は「なにやってんだ」とからかわれていた。
は手をひらひらっと振って選挙のように自己紹介をしていた。
しばらく歩くと前方に陸遜の姿が見えた。
むこうもこちらをじっと見ている。そしてこちらに向かってツカツカと
歩き始めた。
「伯言の所へ行ってください!」
「へいへい」
三人の距離はあっという間に縮まり、“伯言〜〜”と甘寧の上で手を振ってみる。
それには応じず「なにやってるんですか」と皆と同じ質問をしてきた。
「興覇殿って“兄貴”って感じですよねー。伯言もそう思わない?」
「お前ぇは陸遜に似ず、何かあぶなっかしいよな…」
「…質問の答えになってません」
はあ、とため息をついた陸遜は違う話題を口にした。
「甘寧殿、呂蒙殿が探していましたよ」
「おっさんが―――ぁ?!」
「うわっ!」
用件を告げたのと同時に「は降りなさい」と甘寧から強引に引き剥がした。
が、なにぶん、背負ったままの体勢だ。無理矢理引き剥がしたは良いが、そのせいで
今度は陸遜の体勢が崩れ、背中から倒れ込む。を上に乗せて。
「―――っ」
「何したいんだよ陸遜……」
「べっ、別に――――」
失態を見せてしまい、羞恥で真っ赤になる陸遜。
その珍しい姿に甘寧は笑いをこらえきれずケラケラ笑い、言い放った。
「めっずらしいもん見たぜ〜」
「甘寧殿っ!!」
「じゃ、俺はおっさんとこに行ってくるわ」
「―――――もうっ早く行ってください!!」
カカカと再び笑いながら去ってゆく後ろ姿を、相変わらず真っ赤にした顔で
睨みつける陸遜。そんな陸遜にがさらに追い打ちをかける。
「伯言、顔真っ赤だ」
「っあなたは――――…本当に、何をしていたんですか」
「何って…足痛めちゃってさ」
背負ってきてもらったんだよ、と足を指さし説明する。
そして“僕達じゃ背格好似ててやりずらいじゃん”と言う。
陸遜は足の具合を見て「何をやったらこうなるんですか」と呆れた声を出し
の腕を自分の肩にまわした。
肩を借りる体勢になり、は少し驚いて陸遜を見た。
その視線には振り向かず、陸遜は前を向いたまま口を開いた。
「私は肩をかせますよ」
背格好、似てるからやりやすいでしょう?との言葉を借りて言った。
その言葉には笑った。
「兄貴って感じはあまりしないけど、伯言ってやっぱ僕の兄貴なんだなー」
「…何わけの分からないこと言ってるんです」
そう言った陸遜は、優しく笑っていた。
そばにいてあげますよ
そばにいあげるから
しばらくして二人同時に口を開いたので、お互いの顔を見合った。
「……いてあげる、なんて偉そうに…」
「伯言だって言ったじゃないか!」
肩を組んだまま言い合って、今日もまた騒がしく一日が終わるのだった。
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兄弟カプ話ではありません(笑)