「ほら政宗君!あれがかの有名な道頓堀!」
「知らんわっ」
観光と彼と電車
伊達政宗。
かの有名な奥州の武将だ。
そんな彼が……なぜかここに居る。
なぜかなんて、彼にも私にも分からない。
彼を始めに発見したのは私。…だって庭に倒れていたんだもん。
鎧や兜は…その…いかにも戦場にいましたって色をしていて。
そのくせ彼に傷はなかった。
「あ、ほらグリコ」
「な、なんじゃあの男…よう恥ずかしげもなくあんな…」
「政宗君もやってみたら?記念に撮ってあげるけど」
「やらんわ!〜〜それより、その“政宗君”をやめい!」
命令形の口調。
目を覚ました彼に、あなたは伊達政宗?と聞くと
「貴様ごときに呼び捨てにされる覚えはないわ」と、混乱してるくせに
ベッドにふんぞり返り、床に座っていた私を見下ろした。
こういう奴よね。分かっていたから腹は立たなかった。
「じゃあ“政宗”?」
「余計気分が悪いわ馬鹿め!」
「だって“政宗様”なんて私が嫌だもん。君でいいじゃん」
「なっ…わしは一城の主だぞ!?」
「私は年上です」
な、なんじゃこの時代はーーっ!!
そう叫んだ政宗君(何と言われようが君付けよ君付け)は道頓堀にかかる橋の上で頭を抱え込んでしまった。
時代…どうやらこの事態を受け入れてくれたようで。
…貴様は何も思わんのか!?なぜ…なぜ受け入れられるっ
と。そう言っていたから良い傾向だなって思う。
そう。私はこの事態を早い段階で受け入れた。
だって、この目で見てるから。伊達政宗を、今目の前で…自分の目で見てるから。
疑っても仕方がないと思わない?
「ほらほら、一城の主がそんな狭量でどうするの〜?」
「わしが狭量とな!?〜〜仕方がない、譲歩してやる。ありがたく思え!」
「ありがたき幸せー。なんて、家臣の真似〜」
「まったく、無礼なおなごよ……」
「政宗君!写真撮ろう!すみませーん、シャッターお願いできますか?」
「お、おい!!」
「…動きにくい」と文句を言いながら弟の服を着た彼は、確かに違和感はあったが
元が良いせいか見目は悪くなかった。…さすが男前。眼帯がちょっと目立つぐらいかな、問題は。
カメラを通りすがりの人に手渡し、彼の元に戻ってポーズをとる。
ほら、政宗君もピース!
ぴ、ぴーす!?そ、そんな馬鹿のような格好など…
ほら、笑って笑って
面白くもないのに笑えるわけがなかろう!
そういうものなの、写真って!文句が多いぞっ
結局笑ってはくれなかったけど。
親切な通りがかりの人にお礼を言ってカメラを受け取った。
政宗君はそのカメラを不思議そうに眺めている。
手渡して、使い方を教えてあげると「ほー…」と感心したように
数回シャッターを切っていた。
自分の知らない事を教わるのは嫌じゃないみたい。その証拠に、怒らない。
「次行こう!次っ!!」
「ちょっ…待て!」
こうしてまた観光所巡りが再開された。
そう、観光所巡り。
いろんな事を口で説明するよりは、見てもらった方が良いかなと思ったから。
「ま、またこれに乗るのか…!」
「馬よりは怖くないでしょ?速いし」
「馬の方が良い…これは自分で制御できぬ…!!」
「ほら、来たよ」
「うわあっ!!」
…と、驚いたフリもしておかねばな!
政宗君が引きつった笑いを浮かべながらそう強がった。
私は「はいはい」と返事しながら、止まった電車に乗り込もうとすると
服が何かに引っかかった。
慌てて確認するとそれは人の手で。
政宗君が私の服の端を掴んでいた。
は、早う行け!という政宗君に笑いかけて電車に乗った。
「……おい!!」
「ん?」
「これは城ではないか…誰の城だ?」
「これ?これは豊臣秀吉のお城だよ」
「なっ……なぜわしが秀吉の建てた城になど入らねばならんのだ!!」
政宗君、ご立腹。今日はずっと怒ってるような……
でもさ、政宗君も秀吉に従うんだから入った事ぐらいあると思うんだけど…
「わしが秀吉の臣下だと!?冗談ではないわっ」
それとなく聞いてみて、返ってきた返事がこれだった。
…そういえば、まだその辺の時代じゃなかったね。政宗君が居た世界は。
「ま、良いじゃない。入ろうよ」
「……ふんっ、秀吉の奴がどのような城を築いたのか見てやろう」
「うーん…残念だけど……」
中身はそのまま、ってわけじゃないのよね…。
私たちは料金を払って中へと入った。…もちろん、政宗君はタダだけどね。
一階に足を踏み入れた私は隣の政宗君の様子をそっと窺った。
「なっ…なんっ…!?」
「エントランスホール、です」
「……」
「秀吉時代のお城は戦で廃墟同然に。徳川時代に再築されたの」
「………」
「その後復興やらなんやらを経て、平成の大改修でこうなったの」
政宗君が受けたショックはよほど大きかったのだろう。
彼はふらふらっと頼りない足取りで一階をぐるりと回った。
私には分からない。政宗君がどうしてそこまでショックを受けるのかが。
…いや、簡単に“分かる”なんて、彼の前で口にしてはいけないんだと思う。
だって私の場合、分かるのではなくて、想像でしかないのだから。
「政宗君!二階へ行こう!」
「……ああ」
私は彼の手を取った。
また怒られても良い。放ってはおけなかった。
…意外にも、政宗君は何も言わなかった。
そのまま二階の展示コーナーへと進み、更に三階へ上ると政宗君の足がぴたっと止まった。
私も同じように足を止めた。ああ、これは……
「黄金の茶室…が原寸大で復元されたものだね」
「…ふん、いかにも秀吉が好みそうなものだな」
「ふふ、そんな人だったんだ?」
私は笑った。
秀吉の事に、ではなく、政宗君がいつもの調子に戻ってきてくれたから。
手を強く握ると、握り返してくれた。そんな政宗君が――――
「っとと。何考えてるんだか……」
「何がだ?」
「えっ!?ううん、なんでも!さあ、どんどん行こう!」
四階は城の模型があり、いろんな事を聞いた。
場所の説明、どんな役割を果たすのか。
政宗君ならどこから攻める?なんて冗談で聞いてみると真剣に考え出した彼は
一言“難しい”と漏らした。……さすがは難攻不落。
五階に上ると、そこは大阪夏の陣のコーナーだった。
「真田幸村か〜…格好良いよね彼」
「!!」
「なんて。政宗君の方が格好良いよ」
「〜〜!この時代のおなごはそのような事を平気で言うのか!?」
「どうなんだろ?私は言うかな?」
「も、もう良い!次行くぞっ」
さすがにここまで上ってくると階段の位置を覚えたみたいで。
赤くなっている政宗君の耳が見え、なんだか可笑しかった。
あんなに偉そうにしてるのに、褒め言葉には弱いのかな?
照れてるでしょ〜?とからかうと、五月蠅い!と一括されてしまった。
それでも私は笑いを止める事ができなかったんだけどね。
六階の回廊を渡り、七階で紹介されている秀吉の生涯や史実は
政宗君が見たくないというので素通りすることになった。
そしてようやく城の最上階、展望台へと足を踏み入れた私たちは外の空気に触れた。
身体を刺す冬の空気の冷たさの中で、繋いだ手が温かかったので、まるで政宗君の体温を
奪おうとするかのように更に強く握りしめた。
「さ、寒いよぉ……」
「雪も降っておらんのに何処が寒いんだ」
「ご、ごもっともです……」
政宗君は平気そうな顔でもっともな事を述べてきた。
そりゃあ東北は比べものにならないくらい寒いんだろうけど……
震えが手から伝わってしまったのだろう。
政宗が自分の首からマフラーをはずし、私の首に引っかけてくれた。
「そんなに寒いならもう一枚巻いておけ」
マフラー二枚で不格好ではあるけれど、本当に温かかった。
彼のマフラーも、気遣いも。
…なんだか贅沢をしている気分。
「政宗君は寒くないの?」
「…、お前この程度で寒がっておったら奥州には住めぬぞ」
わしは慣れておる、といつもと変わらない様子の彼を見て納得。
そこからしばらくは何も話さなかった。
彼が何を思ってこの景色を見ているかなんて、分からなかったけど。
彼が天下を取ってもこんな風になっただろうなと思った。
こうして大阪の景色を見渡し、私たちは大阪城を後にした。
「どうだった?天下を取った気分は」
「ふん…所詮は人の天下よ」
「そうだけどさ」
「……こうも長い年月を経ると、全てが“模型”だの“復元”だのになってしまうのだな」
「……暗い」
暗くもなるわ……と政宗君は空を仰いだ。
そろそろ日が暮れる。
「お腹、へってるでしょ?」
「ん?ああ…まあ」
「お腹がへってるから暗くもなるんだよきっと!」
「楽観的だな……だが、まぁそれも良い、か」
何か喰うか……と政宗君が漏らした言葉に
待ってましたとばかりに元気よく返答した。
「そりゃあ、大阪といえば……」
「はい、たこ焼き」
「…美味いのか…?」
「名物なんだから不味いわけないじゃん!」
「ふむ……熱っ―――」
「熱いから気を付けてね」
「おそ……………ん。んまい」
数回頷きながら政宗君は美味いと繰り返した。
そんな彼の息が白くて、私はあっと思い出し、マフラーを彼に返した。
良いのか?と聞いてくる政宗君にうん、と頷き、今度は巻いてあげる。
彼なりのお礼だったのだろう。たこ焼きを一つ差しだしてきて。
私は笑ってそれを食べた。
政宗君が「行儀が悪い」とたしなめるように言ってきたが、口元は微笑んでいた。
「ね、今度はUSJに連れて行ってあげようか」
「ゆう、えす…じぇい?何だそれは」
「楽しいよ?乗り物とかもいっぱいで」
「の、乗り物!?わ、わしは良い!!」
「あはは!」
慣れるよ、きっと。
そう言うと、慣れねばいかんのだろうな…と彼は肩を落とした。
そんな彼の背中を叩き「帰ろっか」と声をかけ、返事も聞かずに歩き出す。
政宗君が隣に並んだ。
「……ま、まさか帰りもアレに……」
「乗るよ?」
「〜〜〜うっ馬をもてっ!わしは馬で帰る!!!」
「ないないない。頑張って慣れてよね?」
しばらくは慣れるまで何処にもいけないな、なんて
がっかりしたのは……まだ彼には秘密。
END
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2002番、首里様のリクエストでした☆
観光地を管理人が関西出身というだけで大阪にさせて
頂きました(コラ)USJは著作権が怖いので……。。
夢主は一応地元の人設定なのですが…
和歌山弁と大阪弁の区別のつかない管理人のせいで
標準語仕様となっております;
そのくせ大阪城には行った事がないという情けなさ…
大阪の方々すみません!
内容は大阪城天守閣を参考にさせて頂きました。。
首里様、リクエスト本当にありがとうございました!
かなりお待たせしてしまったこと…重ね重ね申し訳ありません;
どうぞ、貰ってやってください★
続けて2424番の方もお待ち下さいませ。。
++ 2005/12/11 美空 ++