青春というもの。
それは必ずしも恋愛だけが全てではない。
スポーツが青春という者、友情が青春という者。
だが、やはり居るのだ。恋愛が青春と言う者も。
そう、居るのだ。
君の声・僕の名前
「伊達政宗!」
「……なんじゃ朝から」
廊下の開いた窓に手を掛け、もたれかかっていた所へ自分の名前を呼ぶ声が響く。
その声のする方に視線を向けると……いや、向けずとも誰のものかは分かってはいたが。
……また突っかかってきたのか。
「聞いたぞ。私の友を負かしたそうだな!この不義め」
「他校の奴を負かして何が悪い」
「幸村は私の友だ」
「母校を応援せず私情に走っておるお前こそ不義じゃな」
「幸村が相手なら話は別だ」
このご都合主義め…と阿呆らしくなって、まだまだ続く兼続の話をぼーっと聞き流していたのだが
ふとやった視線が、廊下の角を曲がりこちらへと歩いてくる人物をとらえた途端、意識がその人に集中した。
顔は直視しないように、不自然な態度にならないように…それでもだんだんと距離が縮まってくると
緊張で固唾を呑んでいる自分がいた。
どこを見ていて良いのか分からない。そうしている内に更に距離が縮まっていて、今目の前を通り過ぎた。
その時丁度、開け放たれた窓から侵入してきた風が彼女の髪を静かに揺らす。
そう、一つ上の彼女――――
「伊達政宗!聞いているのか!?」
兼続が少し声を張り上げると、思わず呼んだ兼続ではなく彼女を見てしまい―――――目が合った。
そして先に視線を逸らしたのは、わし。
「まったくお前は――――さんか」
「し、知っておるのか!?」
「ん?」
「!―――っ」
「……お前」
「〜〜〜」
一度、名前を知っていた事に驚いて兼続の方に向けた顔を、我に返って元に戻すが、兼続の物言いたそうな視線に
耐えられず、顔に熱が集中した。
そんな顔を兼続に見られたくなくて顔をそむけたままのわしには、このとき兼続の作った笑みが見えていなかった。
そして話す前の1クッションとして兼続が彼女の後姿を見ながら「あー…」と声を出す。
「彼女は慶次のお隣さんで……幸村の好きな人だ」
「なっ、それは誠か!?」
「ああ、嘘だ」
兼続の満面の笑みが憎らしい。
そして奴は更にこう言う。
「慶次の家の隣と言っただろう。幸村との接点など皆無だぞ」
「く……分かっておるわ!」
「それにしても…そうだったのか。不義が恋……」
「いい加減その呼び方をやめいっ!」
政宗の主張をまるで聞いていない兼続はおもむろに政宗の肩を抱き、「そうかそうか」と叩いてくる。
政宗はげんなりしながらその手を見ていたが、兼続の話に耳を傾けた。
「彼女について、教えてやろうか」
「余計なお世話だ」
「知りたくはないか?下の名前」
「………」
「彼女は。歳ぐらいは知っているだろうが、一つ上だ」
そして、先も言ったように家は慶次の家の隣だ。
…あやしい。こいつがこんなに情報を回してくるとは……何かあるはず。
そうは思ったが、せっかく教えて貰えるのだ。聞いておく手はない。
……が。
こいつの情報に頼ろうとしたわしが馬鹿であったわ。
「趣味、不明。誕生日、不明。彼氏の有無も不明だ」
「使えぬわ馬鹿めっ!!」
「おいおい、知っているほうが変だろう?」
しれっとそう言うと兼続は手を離したので政宗は肩を掃いながらも、もっともな言い分だったので頷くしかなかった。
そして、言われる前に先に自分から切り出してやった。
「…で、何が目的だ」
「ん?」
「貴様がタダでわしに情報をやるわけなかろう」
どんな要求がくるのかは政宗も想像できなかったが、政宗としても何か要求してくれた方が
貸しを作った気にならなくて良いので都合が良かった。
兼続はと言うと、気でも狂ったのか「何を言う、友情だろう?」などと言ってきた。
…まぁ、その後にもちゃんと言葉が続くのだが。
「お前の好きな人の情報を流してやるのも友情、お前が私に昼を奢るのも友情というものだ」
「ちっ、貴様という奴は……お前、確か弁当じゃろ。どうした」
「忘れたのだ」
「………」
だんだん阿呆らしくなり、体を反転させて窓の外を眺めながら目を細めた。
…この口やかましい奴だが、今日だけは一つ感謝してやれる事がある。
兼続に名を呼ばれ、目が合ったあの時…もしかしたらわしの名を―――――
「ぅおーい政宗!政宗ぇーー!」
「〜〜なんじゃ、やかましいぞ!!」
「降りて来いよ!頭数足りねーんだ」
「仕様のない奴め…行くから待っておれ!」
おう、待ってるぜぇー、と慶次が大きく手を挙げた。
すぐに入り口に向かおうとして兼続に声をかける。
「行くぞ、兼続」
「あ、いや私は運動は駄目だ」
「分かっておるわ。審判じゃ審判」
「ああ、それなら行こう」
そうして二人は走り出し、慶次の待つグラウンドへと向かったのだった。
政宗の脳裏にふと兼続の言葉がよみがえる。
『 恋か 』
恋など…まだいらぬ。そう。わしにはこうして彼奴らと馬鹿騒ぎしている方が楽しい。
わしの青春は友情じゃ友情。恋愛なんぞ――――――
「あの、伊達……君?」
「何じゃ。わしは次の小テストに向けて忙し……」
「ごめんね、少しで良いんだけど…」
「―――――っ」
あまりに勢いよく立ち上がったので、机と椅子が大きな音をたてた。
その音に驚いた心臓は、短い間隔で脈打つ―――のはクラスメイトの方で、当の本人が
この動悸はただ驚いたからだと思い込みたかっただけなのだ。
「……さん」
「ここ、慶次のクラスよね?慶次、どこにいるか知らないかな」
「あ…いつは、いつもフラフラしておるから………」
「そうよねぇ。どうしようかな…」
政宗は落ち着こうと、位置のずれた机を元に戻し腰を落ち着ける。
それでも視線はの方に向いていて、目の前で顎に手をやり、何かを考えている彼女が
幻ではないと分かるとその視線を少しずらした。
慶次はまだかと自問したし、落ち着けと何度も唱えもした。
……居たたまれぬわ。
それでも五月蠅いくらいに鳴り響いている自分の心臓が、どこか楽しかった。
こんな事で戸惑っている自分が可笑しい。そしてそれが楽しい。
分からぬ。自分が分からぬ。
それでも確かなのは「んー…」と声を出しながら考えている彼女と、開いている窓を間にして自分が居て、
廊下側の席で良かったと、喜びと言える感情と共に思った事。
そんなわしの心情など知らぬ彼女の、ようやく開かれた口からは、政宗にまだ会話を続けさせるような言葉が出たので
さらに思考回路がぐちゃぐちゃになっていった。
「紙と書くもの、借りても良いかな」
「!……どぞ」
「…………これを渡しておいて貰える?」
「………」
政宗は一度頷いただけだったが、は気にした風でもなう借りていたシャーペンを政宗に返しながら
「ありがとう」と微笑んだ。
そうして自分の教室に戻ろうとする彼女に、政宗は意を決して問いかけた。
何でも良い、話をしたかったのだ。
「わしの名前っ!どうして……っ」
「この間廊下で直江君がそう呼んでいたから。その後慶次も叫んでいたしね」
じゃあ、それよろしくね。
軽く手をあげては廊下の角へと消えていった。
もしかしたらわしの名を覚えてくれているかもしれない
「っし!」
政宗は小さくガッツポーズをし、握っていたシャーペンを見た。
恋愛なんぞ…恋愛なんぞ……!
「今日のテストはいける」
政宗はもう一度、しっかりとペンを握り締めた。
彼女の名前が、彼女の声が
頭に、耳に残っている
胸がくすぐったくて
なんだかすごく叫びたくて
抑えるように顔を机に突っ伏した
これを何と呼ぶ
それは恋と呼ぶ
気恥ずかしさが楽しく可笑しく
醍醐味を知った初めての恋
「……ちょっと待て。兼続の奴、知り合いなのか!?」
ご馳走様と、隣の教室で兼続が笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・○
えー、遅ればせながら1万Hit夢ということで。
政宗に恋されたい方用でしたー。。
きっと…みなさん消化不良を起こされたかと思いますが…如何でしょう。
その後をご自由に想像してくださいませ。
片想いをテーマに、兼続との微妙な友情も書いてみたかっただけです(笑)
フリーですので、コピペでお持ち帰り・掲載等々、自由です ^^
大雑把な基本設定はコチラ。ホントに雑把。
++ 2006/11/11 美空 ++