■ ■ 伊達 政宗 ■ ■
この時は、まだわしの右眼がそこにあって、溶け出す雪でさえ綺麗だと思え
見えないほどに近くにあった愛に無自覚だった幼い二人。
「燈花、こっちじゃ」
「梵天に…あいたい」
「見るな寄るな話しかけるな!わしはもう…誰にも会いとうないっ」
それでも時は流れ 自覚した愛に歯止めは効かない。
「小十郎、わしはお前の前では我慢などせぬ」
「命の恩人。あまり覚えてないのだけど。……ねぇ」
「欲しい物は欲しいという。あれはわしの物だとわめいてもみせる」
「小十郎さんって…まだ誰かを貰う予定ってないわよね」
「じゃが…欲しいと思う我が儘と、力で手に入れてしまう我が儘は…違う」
そうして知る。幸せになれない愛の形を。
「見て、小十郎さん。殿は私にああして触れるの。そう……私の物よ全部…全部」
雪割草。
ユキワリソウ
花言葉は 『優雅』 『忍耐』 そして 『悲痛』
■ ■ 直江 兼続 ■ ■
「“アオイロ”とは…どのような色なんだ?」
教えてくれないか。
その問いかけに俺は『空の色だ』としか言えず
またアイツの心をえぐった。
「おチャ?これは“水”とどう違うの?」
「見て。これ、与六は読める?」
「私だって見られるものなら見たいんだよ!皆と同じ景色を…世界を。天下を!」
なにげない物を言葉に表すのは意外にも難しく
見てみろと言えない事がもどかしい。
怒りながら泣きながら
そうして俺達は近くなる。
「ねぇ兼続…顔を見せてくれないか?」
「…私はどこかおかしいのかもしれない」
アイツが私の顔に触れる。
私もオカシイ
お前に触れたいだなんて。
色の無い花
そうして俺達は
まるで悪戯が癖になったかのように
謙信公がいない時に決まって秘め事を重ねてゆく。
■ ■ 李 絳攸 ■ ■
女だって男よりできるんだって、思い知らせてやりたかった。
そんな思いで受けた試験は2度も滑って!
「お前、女だろう」
三度目の正直で合格したら憎らしいヤツらにバレてしまった。
そうして4年。
私の前に春がやって来た。
「私の事は女として―――」
「そう言えば絳攸、女嫌いは治ったかい?」
「〜〜男として見てくれ!なっ」
それでも周りにバレる日は突然やってくる。
激しい批判に『去る』という選択しかできなくて――――ってあれ?
冗談の似合わない仮面の男がそんな弁解を……って何みんな納得してんの!?
誰 か 突っ 込 め !
ドタバタ官吏生活と恋の行方は。
絳攸の女嫌いは治るの!?
燈花が女に戻る日は来るのか!?
そんなの
明日にならなきゃ分からない。
靴占い。
明日の天気は靴の裏。
だーめだ、だめだ。今日はやめよ。
■ ■ 孫 尚香 ■ ■
「妹を……任せるぞ」
「今日よりこの命、尚香様に捧げましょう」
「煉にいさま〜お散歩、連れて行って?」
後ろをひょこひょことついてくる。
護衛だからと言って君の手をとろう。
「尚香様、そろそろ帰りませんか」
「敬語やめてって言ったでしょ煉兄様」
すると優しく微笑むの。
そんなアナタが好き。
「私…お嫁に行かなくちゃいけないんだって」
「ねぇ…煉兄様、お願い…答えて」
「あなたが…孫尚香殿、ですかな」
「あなたの護衛ですから。逃げるの…お手伝いしますよ」
「ありがとう、煉兄様。さぁ速く行きましょうっ」
「俺は…ここまでだよ。尚香」
こんな最後に…昔に戻るの。
アナタって狡い。
私はずっと、後に続く言葉を待っていたのに。
from old days
愛してる。
その言葉ももう遅い。
■ ■ 司馬懿 ■ ■
女など、ただ煩わしいだけではないか。
「女嫌いと噂のお前にわしからの贈り物だ」
「私は女官など置かぬ。去れっ!」
「女性でなければお仕えしても宜しいのですか」
「礼など言わぬぞ。貴様が勝手にやっている事だからな」
「俺…ずっと憧れていたんです」
ぽつりと話したヤツはいつもとは違い、私の顔を見なかった。
その横顔は、男のもの。
「ね。私、役に立つと思いません?」
「ふん」
礼など言わぬ。
言ってやらぬわ馬鹿め。
永ク無情ノ遊ヲ結ビ
「……助かったぞ」
その言葉は静かに空へと消えゆく。
( 李白『月下独酌』より )