練習が終わって部室の鍵を返しに行った帰りに
猫の鳴く声を聞いた。
にゃんこ
見に行くと、猫が誰かに撫でられているところだった。
相手の顔を見ようと猫から視線を移すと、向こうもこっちを向いた。
「 里中 」
「 」
知っている顔だった。
…知ってるも何も、少し前に付き合い始めた自分の彼女だ。
最近、練習などが忙しくて会えていなかったから
なんとなく久しぶりな感じがする。
「どうしたんだ?その猫」
「ノラみたい。可愛いでしょ?」
里中みたいに、と言われムッときた。
彼女にそんなこと言われても嬉しくない。
「なんだよそれ。全然嬉しくない」
「だろうね」
「おい」
はハハハと笑う。
そんな様子に短くため息をつき、隣に座った。
見ると、牛乳パックが開いた状態で置いてあった。
恐らく猫にあげたものだろう。
はこの猫をノラだろうと言った。
ノラなら……
「餌なんてあげてると、なつくぞ?」
「そうだね」
「…猫にしてみたら、優しくされたと思ったらまた突き放されるんだから…
可哀相だろ?」
猫の気持ちなんて分からないけどな。
そう言うと、は苦笑しながら口を開いた。
「私は分かるよ」
「え?」
「猫の気持ち」
猫の頭を撫でながらは続けた。
「ちょっと構われるとその人になついちゃうの」
「うん…?」
「その人は全然そんな気はなくて、ただの気まぐれなのかもしれない。
けど、とっても嬉しかった」
「?」
「その人は……気まぐれなのにね。勝手になついて、優しくされるのを待ってる。
でも…結局は放っておかれて」
「……」
「寂しい。悲しい」
はそこまで喋って口を閉じた。
俺が何か言葉を発そうとすると、彼女は猫を抱き上げた。
そして俺の方へ近づける。
「里中、抱いてあげて」
「え?あ、ああ…」
俺はから恐る恐る猫を受け取った。
撫でてやると、一声鳴いた。
も横から指で頭を撫でながら、名前を呼びかけた。
「つけたのか?」
「うん。…ふふ、良かったね〜抱いてもらえて。いずれ日本一になる腕なんだよ〜?」
「…」
さらっとそう言われ少し気恥ずかしくなり、「帰るか」とズボンの土を払いながら立ち上がった。
そうだね、とも続いて立ち上がる。
「名前付けたって事は飼うのか?」
「うん。飼うよ」
立ち止まり、振り返って聞いた俺を追いこして、は前を歩きながら返事をした。
さらに数歩進んだかと思うと、立ち止まって振り返った。
「気まぐれで優しくしちゃだめだよ。里中」
さっきの話を思い出した。
じゃあ、さっきの「その人」って――――
俺は無意識に走り出し、言い逃げのごとく一言いって歩き始めたの腕を掴んだ。
その拍子に猫がの腕からすり抜けて降りた。
「俺は気まぐれで人と付き合ったりしない」
気がつけば彼女を抱きしめていた。
確かに「好きだ」と言われたのは俺だった。
「良いよ」って返事したのも俺だった。
俺は「好きだ」と伝えてはいなかった。
伝わっているだろう、なんて思っていた。
「野球ばっかりでごめん」
が俺の背中に腕を回したのが分かった。
世間に「小さな巨人」なんて言われている俺だが、彼女よりは背が高いんだ。
…少しだけ。
俺の肩口でが喋る。声がくぐもっていたが、はっきり聞こえた。
「頭なでて」
「抱きしめて」
「一緒に遊んで」
「そしてまた頭を撫でて…」
「名前、呼んで」
ずっとついて行くから。
ずっと傍にいたいから。
俺はゆっくりとの体をはなして笑いかけた。
「好きだよ、」
「…にゃお」
は嬉しそうに微笑んで、丸めた右手で頬を軽くこすった。
なに猫まねしてるんだよ、と笑いながら手をとって歩き出しす。
何となく、と言いながら横を歩くを見ていると、足下でズボンが何かに引っかかる感触がした。
下を向くと、猫が俺たちの間に入り、ズボンに爪を立てていた。
「なんだよ」
「この子、雄だから」
「え?」
「邪魔してるんだよね〜」
「はあ?!」
ね?と確かめるように猫に言いながら、繋いでいない方の手で猫を抱き上げた。
二人と一匹で家路についた俺たち。
の腕で心地よさそうにしている猫をみて。
何だかちょっと悔しかったから、別れ際、彼女にキスをした。
「さ、里中…」
「はは……っ?!いってぇ!!」
照れたに笑って誤魔化した俺だが、次の瞬間、鋭利な爪に頬を引っかかれたのだった。
初!里中ちゃん夢。。
ほのぼのを書きたかったのですが…ほのぼの?
た、楽しんで頂けたら幸いです;;
++美空++