守ってあげる。
そう、約束したんだけどな…
頼りになる
そう言ってくれた君は、もう居ない。
二人の背中
「もう十分強いのに調練なんて必要ないんじゃないの〜?」
あたしは枝に膝をかけ、ぶら下がった状態で調練に励んでいるに声をかけた。
はそれを聞き、手を止めて振り向く。
「まだまだだよ。全然かなわないから」
誰に、なんて…聞かなくても分かるよ。
あたしは枝から足を離し、くるっと一度回って着地した。
そして少し背の高いを見上げてVサインをつきつけた。
「だ〜いじょうぶ!あたしがこれからも二人一緒に居られるように後ろで守ってあげる」
「あははっ!それは頼もしい」
まっかせなさ〜い、と胸を叩いたあたしの頭をが撫でてくる。
別に、馬鹿にされているわけじゃない。彼の癖なだけ。
あたしはそれが嬉しかたりする。
「何を楽しそうに話してるんだ?」
幸村が十文字槍を手に近づいてくる。
おそらく手合わせでもするのだろう。
の表情が明るくなったのが見て取れた。
「くのいちが守ってくれるんだって」
「幸村様がこれからもといちゃいちゃできるようにね〜」
「いちゃ……っくのいち!!」
声を上げる幸村から隠れるようにの背中に回り込む。
予想通り、何もしてこない―――何もできない幸村にこっそり舌をだした。
「くのいちには居ないのか?好きな人とか」
「あたし?」
が後ろにいるあたしにそんな事を聞いてきた。
そんなから離れ、先ほどの木の枝に飛び移り、高い所から返事をする。
「あたしはそんなのより、もっとわくわくさせてくれる強ぉい敵に会いたいな〜」
にゃははと笑ってみる。
やれやれと呆れた表情をしている二人に聞こえるように「お腹すいたな〜…」と
呟いた。
「あ!お団子隠してたんだった!」
食べてこよ〜っと、と言いつつ、あたしはその場から屋根の上へと飛び移った。
飛び移ってから二人を振り返ると
「花より……」
「団子、か」
なんて言っていた。
…団子なんて口実だもんね。
気をきかせてあげたんだよ?遠回りしてや〜っとくっついた二人に。
第三者のあたしには、そんな二人の様子をを見ていると阿呆くさくて笑えたんだけど。
そんな二人の様子を屋根の上で隠れて見ていた。
二人はあたしがいなくなると手合わせを始めた。
互角に打ち合っているように見えるが、やはり幸村の方が上手での刀を弾いた。
その拍子にが尻餅をついたのが見える。
幸村が笑っている。恐らく「まだまだだな」とでも言っているのだろう。
を起こすために手を差しだし、はその手を掴むが―――
そのまま立ち上がらずに幸村の手を引いた。
幸村は不意打ちの力に逆らえず、前のめりに倒れた。…の上に。
そのが「ばーか」と笑いながら言ったのを唇から読み取った。
「あ〜あ、見せつけてくれちゃって」
勝手に見てるのはあたしだけどね〜
そう自分で笑った時。
「 あ 」
幸村がの顔を引き寄せたのだ。
の動きが止まる。
「…ごちそーさま。……行こっと」
見続けるほども悪趣味じゃない。
あたしは二人から視線を逸らし、その場を離れた。
不意に、の言葉が頭をよぎる。
いないのか?好きな人
脳裏に、が幸村の前で見せる幸せそうな笑顔が浮かんだ。
軽く首を振ってそれを無理矢理消す。
「……あたしも馬鹿だね」
◇ ◇ ◇
戦が、始まる。
戦乱の世の中だ、何も珍しい事じゃない。
あたしは準備をしているに近寄った。
「はさ〜、女に生まれたかったとか思わないの?」
「くのいっちゃん…なんだよ急に?」
「べっつに〜。ただ、女だったら幸村様と結婚できるし、子供だって産めちゃうんだよ?」
そこんトコどうなのかな〜って思っただけ。
そう告げるとは律儀にも考え出した。
「結婚…か。うーん…それでも俺はやっぱり男でよかったかな」
別に、男で産まれてきた負け惜しみってわけじゃないけど、と笑って続ける。
「今、両想いでいるのが不思議だよな。ずっと片想いだと思ってたし。
でもさ、片想いでも男なら……」
…なんて言うのかな
と言いたい事をどう言葉にしようと考えている。
そんなをあたしは黙って見ていた。
「…一緒に居られるじゃん。一緒に戦えて……一緒に死ねる」
女だったら何もない限り先に幸村が死ぬだろ?
子供も良いけど、生死を共にしたい。
そう言い切ったはその後に「幸村はどう思ってるか知らないけど」と笑って付け加えた。
「…あーあ、ノロケ聞かされたよ」
そっちが聞いてきたんだろ!と抗議してくるはその後
「ま、死ぬつもりなんてないけど」
そう言った。
そんなにあたしは笑みをこぼさずにはいられなかった。
でも、その笑みがどんな意味を持つものなのかは自分でも分からなかった。
「あたしが後ろに居るんだから大丈夫だって!」
「ほんと、頼りにしてるよ?くのいちさ〜ん」
また、頭を撫でてきた。
そして準備の続きにとりかかる。
撫でられた所に自分の手を置いて、そんなを見る。
―――実は先ほど幸村にも同じ質問をしてきた。
傍にいれれば良い
「…二人して馬鹿じゃない?」
言葉とは裏腹に、あたしは笑っていた。
宿敵、と言って良いのだろうか。
同じ忍者の(向こうは一緒にするなって言いそうだけど)服部半蔵と対峙した。
すぐに戦闘体勢に入り、戦う事になった。
楽勝〜…と、言いたいんだけど。さすがのあたしも傷が目立つ。
なんとか倒した半蔵の死に間際の言葉から幸村達の危険を知ったあたしは
傷の事なんか忘れてひたすら走った。
「、幸村様、死んじゃだめだよ……あたしが行くまで耐えて……!!」
あたしが――――
守るって、約束した。
「…幸村様〜〜起きなよぉ。もう終わったから、寝たふりしなくて良いよー?」
二人、寄り添うように寝ちゃってさ。
こんな時まで見せつけないでよね。
………
………
………
「……もういいよ」
あたしは怒ったフリして二人から離れた。
二人は追いかけてこない。
振り向かずとも、気配で分かる。誰も……何も動かない。
「……馬鹿みたい…」
静かな空気に響いた皮肉。
二人とも、生死を共にすると言っておきながら、いざ窮地に立つと
互いを庇い合ったのだろう。
こいつだけでも生かしてやりたい――――結果としては共に死ぬ事となった。
二人を、一度だけ振り返った。
「それで満足?」
……守ってあげると約束した。
約束を、したんだ。
二人の幸せのためにと―――――
目頭が熱くなり、自分でも分からない感情の渦がこみ上げてくる。
こんな顔、見られたくなくて湖に飛び込んだ。
背泳で浮かび上がると目の前に大きな月が見える。
月の光が、あたしを思い出に浸らせた。
「…結局、キミの隣を歩くことはできなかったよ…」
キミの隣には幸村様が居て。
幸村様のとなりでキミは笑っている。
そんな二人の後ろ姿を、あたしは見守り続けた。
戦の前に話した時、幸村の答えも教えてあげたら良かっただろうか。
でも、あたしはそこまで人間ができていなかった。
「忍……厄介なお役目だよ…」
「……幸村様………」
幸せ?
問いかけは、月夜に溶けて消えた。
END
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初★くのいち夢でしたー。。
EDを見て思いつきました。
なに気に幸村×男主ですみません(笑)
この設定の幸村と男主人公のなれそめも書こうかなーと
思いましたが…思いつきませんでした;;
思いついたら、その内書きたいです。。
++2005/10/19 美空++