「ねえ、明日なんの日か知ってる?」


突然切り出したの言葉に政宗は彼女を振り返った。
知ってるよね?まさか忘れてないよね?
は隣を歩く政宗の表情を読み取っているのかジッと顔を見つめ、
そんな視線の先にいる政宗は「あー…」と言葉を引っ張り不安を煽らせた。


「誕生日。の」
「…覚えてたんだ!?」
「毎年祝っておるだろ!」
「そっか、覚えてくれてたんだ…えへへ。今年はプレゼント何かな〜」
「……ん?」
「………え…?」


それはにとって何気なしに言った言葉だったのだが、政宗は何か言ったか?と言いたげな
固まった表情をし、それでも笑ってみせて。
はそんな政宗の表情に驚きと一抹の不安を覚えてしまい、思わず聞き返してしまったのだった。


「あ、いや…それはお前、今言っては面白くなかろう!」
「まさっ…まさか……」


政宗は「いや……」と呟き「買っておるぞ」と頷きながら言ったものの、視線は宙をさまよっていて
はプレゼントの事に触れてしまったことを少し後悔した。
嘘がつけない所は彼の美点でもあると思ってるんだけど………これはさすがに不安よ!!



 souvenir



「ちょっと軽い気持ちで聞いてみただけなのに……」


『ま、まぁ楽しみにしておけ。な?』

焦りまくっていた昨日の政宗の様子を思いだし、「別に…良いんだけどね」と言葉とは裏腹に
軽くため息をついていた。
誕生日を覚えてくれているのだから、プレゼントぐらい用意していそうなものなのに。


「プレゼント、か……」


は自分の勉強机に肘を立て、その机の上に並べてある物を指でそっと撫でた。
それらは今までに政宗から貰った誕生日プレゼントで。
大切に、大切にしてきたものだった。


初めて貰ったのがぬいぐるみ。
いったいどんな顔をして買ったのだろうか?
一人でぬいぐるみを買っている政宗の様子を思い描くとなんだか可笑しくなり小さく吹き出した。
恥ずかしかっただろうなと。
は解けかけていたリボンを結び直してあげて、軽くキスをした。


ぬいぐるみを元に戻すと目に入ったのが腕時計。
欲しいなって言ってたのを買ってくれて、嬉しかった。
でも同時に誕生日前に迂闊に欲しいものを言えないな、なんて思ったのを覚えている。
ねだっているようで……嫌だから。
そして……去年が香水。
愛用してるよ?政宗?
一年一年増えていくのが嬉しかったのだけれど、今年は――――


「今年はケーキだけ……なんて、ありえそうだわ」





「いらっしゃい」
「うむ。入るぞ」


そう言って玄関で靴を脱いでいる政宗はいつもながらセンスの良い格好をしていた。
脱ぐためにうつむいていた彼の首にチェーンがかかっていて、それはこの前のデートの時には
なかったものだった。
……今日だから?なんて、自惚れが顔に出て笑みがこぼれてしまう。
そんなの様子に眉を寄せて首を傾げた政宗は「?」と名前を呼ぶ。
その声には我に返り「部屋へ行こっか」とパタパタと階段を上り始めた。
政宗がその後に続いてゆっくりと階段を上ってくる。
部屋に入って腰を落ち着けた政宗は、手に持っていた紙袋を机の上に上げ、中身を取りだしてみせた。
袋から出されたそれは長方形型の箱で、取り出し口に店名が記載されたシールが貼られている。
中身が何であるかは一目瞭然であった。


「ケーキ?」
「ああ。お前の好きなやつだ」


とてもじゃないけど他に何かを持っている風には見えなくて。
やっぱり……プレゼントは間に合わなかったようだった。


「開けて良い?」
「わしが開けてやる」


政宗の指が丁寧にシールを剥がし、中のホールケーキを引き出していく。
徐々に姿を現してくるケーキは確かにの好きなケーキで、ちゃんとネームまで入れてくれていた。
たったそれだけの事なのだが、現金にも少し心が揺らぎ、嬉しくなったは素直に謝礼の言葉を述べることが出来た。


「ありがと…」
「いや…その、なんだ」


政宗は照れたように頬を掻き、頭を下げて声を発した。


「おめでとうございます」


変に他人行儀になった政宗に笑みがこぼれ、も「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げ、
頭を上げた二人の視線がぶつかったと同時にお互いに小さく笑い声を上げた。


「お皿、とってくるね」
「うむ」


そう言ってが部屋から出て行くと、政宗は大きく息を吐き出し、それはどこか緊張していた風の
ため息だった。
その緊張を振り払うように軽く頭を振り、の机に目をやった。


「ぬいぐるみ、時計、香水……」


自分が贈ってきた品々は相変わらずきちんと並べられていて、少し気恥ずかしいが悪い気はしなかった。
だが目を逸らすようにして今日持ってきたケーキを見た。


「今年は―――――」
「お待たせ」
「あ、ああ」


部屋に戻ったは持ってきたお皿を並べ、ケーキを前に包丁を手にした。
が、それは政宗によって止められる。


「―――わしがやる!」
「え、そう?」
は座っておれ」


誕生日という特別な日だから代わってくれるのか、それともケーキしか持ってこなかった罪滅ぼしなのか。
政宗はホールケーキを八等分するとの皿によそい、チョコレートのネームプレートをその隣に置く。
ありがとう、というの言葉を聞きながら自分の分も皿にのせて手にしていた包丁を静かに置いた。


「あ!!」
「な、なんだ!?」
「ローソク!使うの忘れたじゃないっ」


ちょっとちょっと!誕生日は電気消してローソクの火を消さなきゃそれらしくないよっ

そう言いながら「なんで忘れてたんだろー!!」と頭を押さえて後悔しているに政宗は呆れて


「馬鹿め。そんな事してもしなくても歳はとるわ!」
「雰囲気は大切なのよ!」
「忘れたものは忘れた!仕方がないだろ」


ほら喰え!

そう言って政宗は自分の苺をのケーキに乗せてやる。
は納得いかず、ふくれた表情でその苺をフォークで刺した。


「…政宗の時もケーキだけ持って行って、ローソクの火なんて消させてあげないんだから」
「ふん、別に構わんわ」


本当に、構わないという様子で政宗はケーキを口にし始めている。
面白くないが、も刺したままの苺を口に運んで黙り込んだ。
人は、食べている時は口数が減るものなのだが、これはそんな空気ではなく、もちょっと言い過ぎたと
思いつつ声を出すことが出来ないでいた。


「わしは」
「 ! 」


急にかけられた声に驚いて政宗を見たが、彼はケーキに目線を落としたままで、そして更に続けて言った。


「ケーキもプレゼントもいらん。……その…、お前がいれば」


お前が傍にいてくれるなら。

は体の底から何かが溢れ、全身に行き渡る思いがした。
それは驚きと嬉しさと、同時に恥ずかしさが入り交じったモノで。


……言われた言葉が恥ずかしいのではないわ……
プレゼントの有無とか、ローソクがどうとか、馬鹿みたいにわめいている自分が恥ずかしい。
私だってそうじゃない……政宗さえいればいい………


は手にしていたフォークが皿にぶつかって音をたてたのにも気付かなかった。
いつの間に政宗の傍まで移動したのか、自分でも分からなかった。
ただ、気付いたら政宗の首元にしがみついていて。


「〜〜〜ごめんなさいっ!」
!?」
「私っ……馬鹿よね」


彼女だから……プレゼントを貰うのが当たり前のようになっていて。
当たり前のように感じていて。
は「ごめんなさい…」と再度謝った。
そんなを政宗はゆっくりと離し、前髪をかき回して笑ってみせた。


「ちょっと外へ出ぬか?」
「政宗…?」


突然の事に驚いていると政宗はの手をとって立ち上がらせ、そのまま手を引いて玄関まで歩を進め、
政宗につられるようにも適当に出ていたミュールを履く。
離れていた手がまた繋がって、外へ出た。


「―――どこ行くの!?」
「ちょっとそこまで」


そこまで、と言う割には行き先が決まっていないようで、ただ散歩に出たかっただけなのだろうか。
は黙って政宗について行くことにしたのだが……
歩けども歩けども立ち止まる気配がない。


「ど、どこまで行くの……?」
「……分からん」
「ええ!?」


二度目の同じ問いかけに、今度は困った顔をして答えてきた政宗は、どうしようかと頬を掻いた。
するとちょっと横道にずれ、上に神社でもあるのだろうか石段があり、そこへ二人とも腰を降ろす。
大通りから逸れた所にあるせいだろうか人通りは少なく、また石段に座っているカップルをまじまじと
見ていく人などいなかった。
二人はまた無言だったが、部屋の中でいる時よりはマシで、は政宗が外に連れ出した理由が分かった気がした。


「実は……ケーキではなくて、もっと他の物も探してはいた」
「 ? 」
「どこかへ連れて行こうかとも思っておった」
「……どうしてやめたの?」
「金がなかった」
「は!?」


確かにそれは仕方がないことだと思うわ……でもそうハッキリ言わなくても……

は軽いショックを受けたのだが、握られていた左手に力が込められたのを感じ
政宗が「その……」と躊躇いがちの声を出したので、まだ話の続きがあるようだった。
何となしに政宗の横顔に目を向けると頬が紅潮しているのが分かった。
お金がなかった事に対しての恥ずかしさなのだろうか、政宗の頬は繋がっている彼の右手のように熱そうで。


「か…金がなかったのにはちゃんと訳があってだな!その……」
「政宗、大丈夫――――」
「これを買ったからでっ……」


大丈夫?と開いていた右手で政宗の頬に触れようとしたのだが、その手を政宗が掴んだのだ。
と同時に握っていた政宗の手が離れ、の右手を持ち直した。
そしておもむろに政宗が取り出したものが―――――薬指にはまった。


「指輪―――?」
「―――いきなりこれを渡すのも、と思うてな。他に別の物も買っていこうと思っておったのだが…」
「…お金がなくて?」
「そ、そういう事だ」


は右手を顔の位置まであげて指輪に見入っていると、政宗はそわそわして目を逸らしてはまた戻したりと
恥ずかしそうだった。……そっか、さっき照れていたのは指輪を渡すのが恥ずかしかったからか。


「そんなに高い物でもないのだ!だから、まだっ……」


「まだそれで我慢していろっ!」



嬉し涙を流しそうなに政宗は唇を重ねた。
その唇が離れるとは「ありがとう…」と涙声で言い、「教会の前…の方が良かったか?」と政宗が少し笑いながら聞くと、も笑って首を振った。
そして政宗はそんな彼女にもう一度口づけをし、祝いの言葉を再度述べた。


「おめでとう、






  遊びで良い

  ごっこで良い

  今私たちは本気なのだから――――




この日貰った指輪が実はペアリングで、片方は政宗の首にかかっている事をが知るのはもう少し後。







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リオンちゃんより、2662番キリリク政宗夢でした☆
遅くなってごめんなさい!!
もう戦ムソ2も出て何ヶ月もたってるっていうのにね……;

++ 2006/5/5 美空 ++