はおるか!?」
「だ、伊達…?おーい!」
「聞こえてます!」


激しく開かれた横開きのドアは勢いのせいか一度開ききっても、またゆっくりと閉まってきて
政宗の腕に当たった。
政宗はそんなものは気にせずに、教室の奧から自分の立っている所まで
どこか恥ずかしげに歩いてくるを待っていた。


「な、何よ大きな声で恥ずかしい……」
!今日の放課後予定はあるか!?」
「な、ないけど…」



「わしとデートするぞ!!」



が真っ赤になって固まったのは言うまでもない。





   繋







「信じらんない信じらんない!普通あんな事大声で言う!?」
「言ってしまったもんは仕方なかろう!」


あれからすごく冷やかされたんだからねっ
そんな恨み言を、前を歩く政宗の背中にぶつけている
それでも一緒に帰っているということは政宗の提案を受け入れたということだろう。
政宗はというと、ズボンに手を入れながら後ろを振り返ることもせずに言い返してくる。
そしてそんな政宗には自分たちの間柄の最大のポイントを指摘した。
指摘せずにはいられなかったのだ。


「どうしてデートなのよ。べつに付き合ってるわけじゃないのに」
「女と遊びにいく事はデートだと孫市に聞いた」
「あんたはどこの恋愛初心者よ!そんなの意味が違うって分かるでしょ!?」
「だっ誰が恋愛初心者じゃ!……そこまで言うなら来なければ良かろう?!」
「幼馴染みのバカ発言に付き合ってあげてるだけよ!」


周りなど気にしない所は似たもの同士ということか。
周りに他の下校生徒がいるにもかかわらず政宗とは大きな声でそんな言い合いを繰り返していたのだが
政宗が痺れをきらして振り返った。


「いつまで後ろを歩いておるつもりだ!隣に来いっ」
「ま、またあんたはそんな恥ずかしい事を平気で……っ」
「おいおい、こんな往来で何青春してるんだ?」
「雑賀くん」


いや、若いねぇ〜と笑いながら孫市がの横に並んだ。
政宗は足を止めて振り返る。


「ちょっと、政宗に変なこと吹き込まないでよね!」
「一般論を述べただけさ。それよりちゃん、こんな所で言い合いしてるならオレと……」
「孫市!こいつはわしとデート中だ!!行くぞっ」


慣れた動作での肩に手を回して誘ってくる孫市に、政宗はの腕をつかみ、
取り返すかのように引き寄せて早足に歩き出した。
孫市は特に追うこともせずに、やれやれと肩をすくめて笑った。



「政宗っどこまで行くの!?」
「アイツの来ぬ所じゃ」
「もう見えないよ!」


そこまで聞いてようやく歩くスピードを緩めた政宗に、はもつれかけていた足をなんとか元に戻し
掴まれた腕に視線を向けた。
政宗は何も気にしていないのかそのまま歩いていくので、とまどったは声をかけた。


「政宗、手っ」
「ん?」
「手、掴んだままだよ」
「手?ああ…」


解放された腕は二人分の体温のせいか熱くて、は思わず違う手でおさえた。
すると政宗はどうしたのか手をさしだしてきての手の前で止める。


「え…?」
「掴まなければ良いだろう?ほれ」
「え……え?」


『掴む』ではなく『繋ごう』と言いたいのか政宗はの行動を待った。
はいきなりのことでどうして良いのか分からずに混乱したまま手を差しのばすことはなく
それを悟った政宗は手を引っ込めてズボンに入れ、頭を掻く。
そして背中ごしに「行くぞ」と言ったのが聞こえ、は、なぜだか分からないが後悔にさいなまれた。


「まさむ――――」
「あ!」


声をかけようとして遮られたは政宗の声に驚いて続く言葉を引っ込めた。
そんなを振り返った政宗はいつもの笑みを浮かべて前を指さしていて。


!アイス喰うか」
「う、うん!」
「よし、待ってろ」


そう言って道路を渡っていった政宗は少しして戻り、両手にはアイスが握られていた。
その片方をに差しだし歩き出す政宗には声をかける。


「ありがとっ」
「ん?ああ、早う喰え。溶けるぞ?」


そう言った政宗はアイスを食べながら笑っていたのでもつられて笑った。
そして少し足を速め、今度こそ政宗の隣に並ぶ。


「美味しい」
「当たり前だ。わしが買ったのだからな」
「関係ないって」
「あるある。あそこは評判の店だと聞いている」
「じゃ、ぜんぜん関係ないよ!」


政宗の言っていることが無茶苦茶すぎては声をあげて笑った。
そして笑いながらも何か頭に引っかかったが特に深く考えることもなくアイスを頬ばった。
政宗はそんな楽しそうにしているを横目で見ながら安堵の息をつく。
するとすぐ横の公園からサッカーボールが転がってきて。
このままじゃ道路に転がり出てしまう――――
政宗は駆けだしてそのサッカーボールに足を出し、器用に上へと軽く上げた。
そしてそのボールは数回政宗の足の上ではね、公園の中へと蹴られた。
その先には男の子らが数名居て、戻ってきたボールに歓声をあげてまた遊び始めた。


「―――政宗ってサッカー上手かったのね」
「なんじゃ?今頃気付いたのか?」


わしに出来ぬスポーツはないわ!

得意げに笑っている政宗は確かに運動神経が良くて、そこはも認めていた。
体育ではいつも走り回っていて、そんな政宗をみているのが楽しく、そして格好良く見え――――


「ええっ!?」
「な、なんじゃいきなり!?」
「ううん、なんでもない」


不覚にもさっきの政宗も格好良いと思ってしまったわ……

は不意に熱くなった頬の熱を下げるために残りのアイスを急いで口にする。
政宗はそんなに首をかしげながら自分もアイスを食べようとしたのだが……


「うっ!」
「な、何!?」
「わ、わしのアイスが……!」
「え?あちゃー…」


先ほど急に駆けだしたせいか、溶けかけていたアイスが無惨にも地面に落ちてしまっていた。
手元に残ったコーンを見て落胆するが「まぁ良い」と歩き出す政宗には声をかけた。


「食べる?」
「なっ……お前、何恥ずかしいことを言うておるのだ!?」
「親切心じゃない」
「…では一口」
「はい」


政宗が少し屈み、差しだされたアイスに顔を近づける。
そこでは我に返った。


(この状況って……もしかして)


他人から見ればカッ……
急激に体温が上がったのは夏の暑さのせいじゃない。
政宗の一口が終わるとは「暑いねー」と手で扇ぐ仕草をして顔の熱さを誤魔化した。
それに気付いていないのかは分からないが、政宗も「暑い」と制服のシャツを使って身体に風を送る。
そうしていたくせに政宗は言う。


「お前も熱く…なれば良いな」
「え?!私は嫌よ暑いのは……」
「わしは最近ずっと熱い。熱くて、この熱をどうすれば良いのか持て余していた」
「…政宗?話が見えないんだけど……」


日が大分落ちたせいか、気が付けば公園に子供達の姿はなく
私たちは腰掛けていたブランコを鳴らし揺れていた。
急に黙り込んだ政宗に視線を向けると、政宗はブランコに立ち、勢いよくこぎ出して。
そしてそのまま飛んで地面に着地する。残されたブランコは弧を描きながら徐々に止まっていく。


「わしが今日お前を誘った理由を…聞くか?」
「………うん」


言えば戻れない。
聞けば戻れない。

二人の頭の中でその言葉が流れた。
それでも…言わなければ、聞かなければ進めない気がしたのだ。


「今日誘ったのは…試してみたかったのだ。自分の熱と、お前の反応を」
「私の…反応?」
「ああ。誘いに応じてくれた時は……正直、嬉しかった」



   「わしとデートするぞ!!」

  

「そしての反応を知りたくていろいろ試した」





   「隣に来いっ」

   「掴まなければ良いだろう?ほれ」

   「お前も熱く…なれば良いな」




らしくない今日の彼の言動には、そんな意味が込められていたなんて。
気付かなかった。…いや、気付いていたのかもしれない。
自惚れてしまう自分が嫌で……気にしないようにしていたのだ。
は政宗の次の言葉を待った。
政宗は、言葉を選んでいるように見え、それはどこか躊躇っているようにも見えた。


「だが……結局分からなかった。お前の気持ちが分からない」
「気持ち……」
「だから。教えてくれ」



「わしはお前が好きだ。お前は…わしをどう思う」



政宗が私を見据えて問うてくる。
はブランコに座ったまま動くことができなかった。
政宗は幼馴染みで……友達…で………


「試しているだけでは何も始まらぬと思った。だから……だから何度でも言う」

「わしはお前が好きだ」


二度目の告白。
そして政宗は続けた。「気持ちが聞きたい」と。
は先ほど政宗がしたようにブランコに立ち、数回こいでそのまま飛んだ。
政宗よりも距離は出なかったが着地し、改めて政宗と向かい合った。
そして、突然な行動に驚いていた政宗には手を差しのばす。


「何だかんだ言ってさ…結局私も嬉しかった。デートに誘われた事も、手を差しだしてくれた時も」


私も…ちゃんと伝えるよ。
は差しだした手はそのまま、政宗を見据える。
政宗は、幼馴染みで、友達で。一緒にいると楽しくて、頼もしくて――――


「政宗が好きです」

「だから…私と付きあっ―――――」


最後まで言う前に、政宗は腕を伸ばし、の手をとって引き寄せた。
は前のめりになりながらも政宗の腕の中に収まる。


、わしと付き合ってくれ」
「………はい」


しばらくそうしていたが、気が抜けたのか政宗はずるずると地面に座り込んでしまった。
つられても地面に膝を立てる。


「ちょっと…怖かった」
「もう、戻れないよ?幼馴染みには」
「構わぬ」


政宗は顔を上げての顔を引き寄せる。
三度目の告白。囁かれるのと同時に二人の唇は重なった。








「政宗、学校行こう!」
「ああ」


朝。誘いに来たの声に応じて玄関を出た政宗。
何も言わずに差しだされた手には笑って手を差しのばす。


朝の日差し、二人の繋がりを照らして。






  END






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3131番、千咲様のリクエストでした☆
た、大変おそくなって申し訳ありません……!!
しかも内容がリクと異なっ……;甘々デートはどこへ……
よろしければ貰ってやって下さい!リクエストありがとうございました☆

アイスの所で夢主が引っかかった事とは…
政宗はわざわざ美味しいアイス屋をチェックしてくれていたということで、
それに気付いたような気付いていないような感覚になったと。(どっちやねん)
全ては政宗の気遣いと言うことで………自分で解説するこの情けなさに涙;

    ++ 2006/7/1 美空 ++