「おや?殿への贈り物ですか」
「!なっ…こ、小十郎!?」
途端、手にしていた物を袖に隠すが、遅く。
別にそれ以上何か言うわけでもなかったが、しみじみと頷きながら
微笑んでいる小十郎の様子に、見られたという羞恥心で政宗の顔は真っ赤に染まった。
「い、言うでないぞ!!」
若葉マークな二人
「ったく、成実まで馬鹿にしおって…!」
あの後すぐに成実も来て、二人して頷いていたのだ。
特に正面きって馬鹿にされたわけではない。二人の
「ついに政宗様も」と言いたげな様子に耐えられなかっただけだ。
おまけに、「早くわたせ」とせっついてくる。
政宗はそんな二人の様子を思い出しながら、機嫌を現したかのような足音で廊下を歩く。
玄関までたどりついた所で呼び止められた。
「若殿、どちらへ?」
「〜〜〜小十郎に聞けっ」
至極当然の事を聞いて怒鳴られた鬼庭は困ったように頭を掻き、
その小さな背中を見送った。
(殿のところ…か?)
とりあえず、小十郎たちに政宗の外出を伝えに行った鬼庭であった。
家の玄関前まで来て、一つ呼吸をする。
そして声をかけたのだが、中から返事はなかった。
少しムッときて、もう一度声をかけたがやはり返事はなく。
庭の方へ回ってみると、中で女性が倒れているのが見えた。
…いや、寝ているだけだ。
居るではないか、と呟きながら勝手知ったる幼馴染みの家に
庭から入り込んだ。
履き物を脱いで上へとあがる。
「」
名前を呼びかけたが返事はなく。
ぐっすりと眠っている様子に起こすのも躊躇われて、それ以上は
声をかけず、隣にあぐらをかいて座った。
「…いくら最近戦がないとは言え、怠けすぎだ」
別に、本心ではない。
かまってほしい時にかまってくれないつまらなさから出た言葉だ。
そんな事を呟きながら年上の恋人であるの寝顔をじっと見る。
年月を経ても寝顔は同じ、と言う人がいるが、政宗はそうは思わなかった。
昔見た寝顔とは、全然違う。
…自分はどこか変わっただろうか。
「…それにしても」
全然起きんな、こいつ!
待つのが嫌いな政宗は暇つぶしにの頬を引っ張ったりして遊び出した。
何の反応もないのがおかしいやら、つまらないやら。
政宗の中で、ちょっとした悪戯心が顔を出した。
彼女の額にかかった髪を手でそっとよけ、政宗はゆっくりと顔を近づける。
額に触れた一瞬、唇から彼女の体温が伝わってきた。
少し距離をとり、の目を見たが、閉じられたままで。
馬鹿め、と小さく呟いてまた距離を縮めた。
唇が、の唇と軽く触れ……
政宗は近づけた時と同様にゆっくりと顔をあげた。
「………」
からふいっと顔を背ける。
口元を軽く手で押さえながら、横目で彼女の様子を盗み見るが、やはり起きた気配はなくて。
政宗は顔がだんだん熱を帯びていくのを感じた。
自分のした行為の恥ずかしさと、秘密を一つ作ったという思いが更に熱を作っていく。
ふと目に入った鏡台の鏡に自分の赤い顔が映って見え、思わず両手で顔を仰いだ。
「……誰?」
突然背中からかけられた声に心臓が跳ね上がった。
振り返るとが体を起こした所で、指の背で目をこすっている。
「や、やっと起きたか!」
「―――まっ政宗?!ええっ?!なっ……」
「よく…うん。よく寝ておったぞ」
は目の前に政宗がいる事に驚いたのと同時に、寝起きの状態ということで
慌てて手ぐしで髪を整えた。思ったより髪が乱れていなくてほっとしたのも束の間。
緊張で無意識に正座し、恐縮した様子で口を開いた。
「お、起こしてくれれば良かったのに…」
「いや……うむ」
まさか「起きる様子がなくて助かった」などと言えるはずもなく、
政宗は目を泳がせて曖昧に頷いた。
会話が終わってしまったので堅い沈黙が続く。
二人とも肩に力が入ったままうつむいているので、はたから見るとまるでお見合いだ。
「 おい!
あの! 」
「「 え?! 」」
「な、何?」
「こそ何だ」
「あ…うん。お茶!煎れてくるねっ」
すっと立ち上がったは呼び止める暇もなくそそくさと部屋を出て行く。
残された政宗はしばらく呆然としていたが、ふと我に返り乱暴に頭をかいて
「あー、くそっ」とその場に寝ころんだ。
(昔のわしらは何を話しておったのだ?!)
恋人同士になってからというものの、お互い照れくささからかギクシャクしている。
幼馴染みだったのだから、お互いの事はよく知っているのに。いや、なまじよく知っている
ものだから、いざ恋仲になると照れくさいのだ。
足音が近づいてきたので身を起こしたが、どこを向いていたら良いのか分からず
とりあえず庭に視線をむけた。すると、襖の開く音がしてが入ってきたのだが、政宗の横を
通り過ぎ、縁側に盆を置いた。そして政宗を手招く。
それに従った政宗はお茶をのせた盆を挟んでの横に座った。
煎れてもらったお茶を飲むが、飲むと余計に口を使えなくなる。
何か話そうとは思うが、何を話して良いのかすら分からなくなってしまう。
だが、いつまでもこんなままじゃ……
そんな事を考えながら湯飲みを盆に戻すと、コトッと湯飲みと盆の当たる音が
二重に重なって聞こえた。不思議に思って盆に視線をむけると、どうやらも
同時に湯飲みを置いたようで。しばらく瞬きを繰り返した二人だが、
おかしくなって吹き出した。
「、わしと同じ事を考えていただろう」
「同じ事?じゃあ政宗も…」
「「 何を話したらいいんだろう 」」
「…な?」
「ほんと」
二人はもう一度笑い合う。
その後、が先に口を開いた。
「私、年上だけどさ、こういうの不得手だから全然分からないよ」
政宗と一緒に戦に出るために剣ばっかり習っていたからな〜と
笑った顔はそのままで言った。
「わしだって分からぬわ!こんな事、小十郎にも聞けぬしな!」
政宗も開き直ったように後ろに手をついて天井を見上げながら笑う。
二人はひとしきり笑いあっていたが、笑いをやめると自然と顔が向き合った。
が、すぐに政宗は間にある盆に視線を移す。
もそれを追い、政宗が少し口を尖らせたのを見て、盆に手をかけた。
「これ、ちょっと…」
「邪魔だ」
「だよね」
がそのまま盆を自分の背後に置き直すと、二人の間は意外と空いていて。
まず、が右手をついて少し寄った。次に政宗も同じように左手をついて少し寄る。
二人の間につかれた手の指先が触れあう。
―――政宗がの指を絡めとり、指を組んだ。
驚いたは政宗を見るが、政宗は顔を庭に向けたままだ。
「〜〜〜見るなっ」
視線に耐えかねたのか、政宗は顔を完全に背けてしまったが
は組まれた指が熱くなってゆくのを感じた。
嬉しさを押さえられなくて。
破顔したまま勢いよく背中から倒れ込んだ。
もちろん、組んだ手はそのままだから政宗を引っ張る形になる。
「なっ……」
「あははっ」
抗議しようと体を横にした政宗と同時にも体を横にする。
顔が、近い。
カッとお互いの体温が上がったのが手を通して伝わってきた。
その時、何かの感触が政宗の意識をから逸らさせる。
あ!と政宗は声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「お前に…その、渡す物があったのを忘れておった」
「私に?」
手を離し、体を起こした政宗は袖を探る。
も体を起こし、何が出てくるのかを待つが、政宗は袖に手を入れたまま出そうとしない。
そして、首をかしげたに「目を瞑れ」と言った。
「え?」
「いいから瞑れ!良いと言うまで開けるな?!」
「う、うん」
はわけの分からないまま言われたとおりに目を瞑る。
政宗はそれを確認して袖から手を抜いた。
膝で立ち、一歩近寄ると彼女の膝に自分の膝がぶつかる。
自分の心臓の音を聞きながらの手をとった。
驚いたのか、彼女の身体が少し強張ったのが分かった。
これ以上驚かせないようにゆっくり指を開かせる。
手のひらに袖から出した物を置き、今度は握らせるように両手で包み込んだ。
はすぐに離されるものだと思っていた政宗の手がまだ自分の手を包んでいるので
目は開けずに彼に問う。
「政宗、もう良――――」
おもわず目を開けてしまった。
すぐに離れていく彼の左目が照れくさそうに見ている。
は指先で自分の唇を触った。
見開いた目が居心地悪そうに照れた政宗をとらえる。
そんなの様子を見た政宗は、たまらず吹き出した。
政宗の笑い声では我に返り、慌てて両手で顔を隠した。
呆然とした顔を見られたくなかったのではない。
真っ赤になっているであろう顔を隠したかっただけ。
「〜〜〜はっ初めてなんだけどっ」
「…わしもだ」
「っ―――もう馬鹿っ!馬鹿ばか!!」
「なっ……!!」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは!馬鹿めっ
ばか!〜〜もう恥ずかしいっ
わ、わしだって恥ずかしいわ!!
私だって…!
二度目だと言ったら、この年上の恋人はまた怒るだろうか?
政宗はこみ上げてくる笑いを必死で耐えるのだった。
「な、何?」
「いや……聞け。」
政宗は目を瞑り、笑んだまま一つ息をついた。
そしてその目を開け、独眼がをとらえた。
「わしは確かに年下で、背も低い。隣を歩くお前に
恥ずかしい思いをさせているかもしれん」
話しの意図が分からなかったが、静かに聞いていると
だが、と政宗は続けた。
「だが、わしは必ず天下を取る!」
「政宗……」
「約束する。そしてその時、隣に居るのはお前だ」
「お前に、遙か高みから見える天下の景色をやろう」
いつもの、自信たっぷりの笑みを作ってみせた。
何か言いたかった。
彼に、何か……
「置いて…いかないでね?」
口に付いたのは、昔とは違う様子の彼に対して感じた事だった。
それを聞いた政宗は腕を組んで当たり前だというように笑む。
「当然だ」
「置いていかれても、勝手についていくよ?」
「わしは、お前がわしの前後を歩くことを許さぬわ」
「あは…あはは」
涙が出そう
そんなの様子を察した政宗は軽く咳払いをして
「まぁ…」と続ける。
「まだ道のりは長いからな!今は…それで我慢しろ」
わしの小遣いで買えるのはそれくらいだ。
の手元を指さして言う。
そしてちらっとの様子をうかがい見ると、手の中にある物をみて
固まっているのが目に入った。
気にくわなかったのだろうかと気持ちが焦る。
「かんざし…」
「も、文句は小十郎に言えっ」
あやつがわしの小遣い管理をしとるからの!
居たたまれなくなってに背を向ける。
小遣いが少ないのが悪い、と文句を垂れていると
背中から衝撃が伝わってきて、とっさのことに踏ん張れず前のめりに崩れる。
おもいっきり顔を打った政宗は、首だけを少しひねって後ろの人物に怒鳴りかけた。
「〜〜痛いわっ!いったいなん――――」
「ありがとうっ政宗!!」
なんなんだ、と続けるつもりがの言葉によって遮られた。
力一杯抱きしめてくるに、怒りより照れが勝った。
「う…や、別に…礼を言われるようなことでは……」
「ありがとう」
「……うむ」
ありがとう
もう一度言ったの言葉が、背中から伝わって広がった。
温かいのは、抱きしめられているからだけではないだろう。
「政宗様もご立派になられて……」
「男が上がったねぇ」
「……お二方、これは出刃亀というのでは…」
「や、あんたも入ってるよ鬼庭さん」
「む……」
天下を、必ずお前に。
END
................................................................................................................................。..。。
1111番、戸名瀬サマよりキリリクの戦ムソの政宗夢でしたー★
…どないやねん!
甘いっていうのかこれは……;;
管理人、ほのぼのと甘々の境界線が分かっていないようです。。
もっとラブイチャなものを想像されていましたら、誠に申し訳ありません!
政宗の喋り方があやしい上に小十郎たちまで出してしまって…(遠い目)
こんな物でも、楽しんで頂けたら幸いです;
リクエスト、本当にありがとうございました!!
++2005/10/10 美空++