「で、できた…」

「私の方も出来上がりましたわ」










ふう、と息を吐き出して、綺麗に飾り付けられたケーキを

遠くからしげしげと眺める。おかしな所がないのを確認した

同じく出来たと言った甄姫のケーキを見せてもらった。








「わ!さすが甄姫様、上手いですね!」

「いえいえ。あなたのも美味しそうですわ」









今夜はクリスマスパーティということで、三人でケーキを作る事にした。

…そう、三人で。









「ふふふ…出来ました!さぁ甄姫殿も殿もご覧あれ!」

「張コウもできたの?どれど―――ぇえええ!?」

「…まあ」


















   聖夜絵巻














「ああ…美しい……!!いかがです?私の最高傑作は!」

「すごいよ張コウ!わー綺麗なウェディングケーキ!」

「今日のパーティはウェディングではありませんが…素敵。美の結集ですわね」

「何事も美を追究しなければいけませんからね」








パーティ場に運ばれた張コウのケーキを見上げてや甄姫がうっとりと眺める。

諸将達は高々としていて、きらきらギラギラしている張コウ作のケーキを目にして

開いた口が塞がらなかったが、女性二人の様子を見て何も言う事はできなくて。

そのケーキはやはりパーティ場の中心に置かれる事になった。

ほう…と感心していた曹操が杯を持つと、他の武将達も我に返り杯を手にする。

一度咳払いをして声の調子を整え、手にした杯を頭の高さまで上げた。










「今夜は無礼講だぞ。メリークリスマぁス!!」

「「「 メリークリスマース!! 」」」









こうしてクリスマスパーティが開催されたのだった。

始めは甄姫とが作ったケーキを切り分けて食べていたのだが、なにぶん人数が多い。

やはり、これしかないなと皆ウェディングケーキの周りに集まってきた。

そして、まだ物足りないのか張コウがローソクを手に飛んで…いや、軽やかに

ケーキの前へと踊り出てきた。そしてケーキにそれを刺していく。










「あとは火ですね……」

「はーい、注目ー!!」









が数回手を叩いて右手を挙げた。

火を探していた張コウを始め、ローソクを見ていた諸将の視線がに集まる。

はにやにやしながら袖口を漁り、勢いよく手を抜いた。










「じゃーん!!」

「そ、それは指先一つで火が付くという噂の……!」

…そんなモンどこで手に入れたんだ…?」

「陸遜くんから借りてきましたー」

「「「 遠っ!!! 」」」








夏候惇が「阿保かお前はっ」と一喝したが、一度使ってみたかったんだもん、と

嬉々としてケーキに刺されたローソクに火を付けてまわる

全てのローソクに火をつけ終わると、チャッカマンを袖口に戻しながら

「みんなで火を消そう」と提案した。











「みんなで一斉に吹き消すの」

「…それは誕生日の話だろう」

「惇兄、そんな細かい事言うたらあかん!」

「誰だお前」









夏候惇の指摘も虚しく、ローソクの火は一斉に消されたのだった。

おおーと拍手がぱらぱらと起こる中、が包丁を持ってケーキの前に立った。

このケーキをどうにかして切ろうというのだ。

そんなの真後ろに立って、後ろから腕を回した曹操は

の手の上から同じように包丁を握ってきた。







「よし、。わしも一緒に切ってやろう」

「ありがとうございます!……一緒に?」

「うむ。入刀――――ぐああぁっ!」







ちょっとした茶目っ気を出した曹操だったが、それは曹丕の鉄拳によって

遮られてしまった。ダメージ声を出した曹操がぶっ飛び、床に倒れる。

殿ー!!と典韋が駆け寄ったが「し、子桓…め…」と言い残して気を失ってしまった。

いきなり父がパーティから脱落したというのに、曹丕は知った事ではないというように

無関心で。から包丁を受け取りながらすまん、と謝ってきた。








「すまん、父があのようで」

「いえいえ。慣れてますから」

「そうか。……しかし」







じっと受け取った包丁を見つめ、隣の甄姫に振り向いた。








「こういうのも悪くはないな。甄よ」

「ま…」

((( えーーー!!? )))







ちゃっかり甄姫と結婚式ごっこをした曹丕に、血の繋がりというものを学んだ

武将達であった。

結局、ケーキを切るというのは難しくて、寄せ鍋のごとく皆それぞれが欲しい時に

欲しい分だけ取っていくというような形になったのだった。

所々スポンジが見えて、段々と不格好になっていくケーキを見て、張コウは涙を呑んだとか。



ケーキの事が一段落ついてからは各々食を楽しみ、会話に華を咲かせたりと至って平和だった。

そんな中、一人の男がどこかソワソワしながら手元の包みを握ってはに視線を送り、

また、当たりを見回したりと落ち着きのない様子で居た。

そして意を決したように席を立ち、緊張気味にに近づいていく。

それを見ていた夏候惇は張遼の目が光ったのを見てしまい、嫌な予感がするな…と

保身のためにそそくさとその場を離れていった。

それには気付かずにの名前を呼んだ男―――徐晃は緊張のせいか、やはりソワソワしていた。










殿…あの、ちょっと良いでござるか…?」

「徐晃殿!あ、はい。楽しんでますか?」

「え、あ…もちろん!殿のケーキ…美味しかったですぞ」

「ありがとうございます〜!へへ、良かった」








照れ笑いを浮かべたに徐晃は頬を熱くし、それを隠すように

慌てて持っていた包みを差しだした。

のぼせていたせいか、後ろの殺気にはまだ気付かない。







「く、クリスマスプレゼントでござる。良かったら……」

「良いのですか!?ありがとうございます!」

「その…拙者、女性には何を贈れば良いのか分からず…」







が中身を開けると手袋が入っていて。

それを手にはめてみせたは極上の笑顔で徐晃にお礼を言った。








「とても嬉しです!」

「そ、それは良かっ―――!?」

「じょ、徐晃殿!?」






何かが飛んできたと思ったら、徐晃の頬にケーキがヒットした。

を目の前にして反射神経が鈍っていたようだ。

出所を確かめてみると……









「おお、徐晃殿。これは申し訳ない」

「……張遼殿?」





悪いとは微塵にも思っていないであろう張遼が、額に青筋を立てて笑っていた。

さすがの徐晃も張遼がわざとしたのだと分かり、引きつった笑みを返す。

その張遼が微笑んだままの前に進みでると徐晃の前に立ち塞がる形になり、

徐晃は抗議の声をあげようとしたが、後ろ手で皿に載せていたケーキを顔面に押しつけられて

黙らされてしまった。








「ちょ、張遼殿…徐晃殿が……」

「お気に召されるな。殿、これは私から」










そう言いながらマフラーをの首に巻いた。

ありがとうございます!と喜んだの様子に張遼は破顔したのもつかの間。

今度は徐晃の投げたケーキが張遼に直撃した。








「大丈夫でござるかー張遼殿」

「あっはっはっは」







二人の戦いの火蓋が切って落とされた。












一方、こちらでも二人の地道な戦いが繰り広げられていた。












「ふはははははは!見よ!我が深謀遠慮っ」








司馬懿の高笑いが部屋に響いた。

司馬懿はフォークを器用に扱い、苺を一つ二つと皿にのせていく。

すでに皿の上には苺が積み上げられており、赤い山を築いていた。

ケーキ侵略戦争。もとい苺争奪戦。

対する人物は曹丕。

どうやら彼が司馬懿に勝負をふっかけたようだ。

曹丕の皿にも苺の山ができている。

張コウの苺をふんだんに使ったケーキがこのような遊びを勃発させてしまったようだ。

ケーキの側方にも苺が使われており、それを取ったあとが転々と続いていた。

そろそろ苺がケーキの上から全て消えてしまう。









「ふっ、仲達よ。詰めが甘いな」








もはや侵略戦争は苺が最後の一つとなり、佳境を迎えた。

二人の間で火花が散り、同時に軽い緊張感を覚える。

司馬懿と曹丕が機は熟したとばかりにフォークを突き出したが……









「おっ、これ貰ってくぜ〜」

「「 な!? 」」








間から伸びてきた夏候淵のフォークが最後の苺をかっさらって行ってしまった。

二人はフォークを持った手を宙にうかせたまま固まってしまい、美味しそうに食べていく

夏候淵の背中を見送った。









「ふはっ、ふはははははははは!!!」

「ふっ。くくく……」

「ふははははは!!!」

「はっはっは!!」

「ケーキ喰うだ〜」

「「 は!!? 」」









夏候淵と入れ替わって許チョが豪快にフォークをケーキに突き立てた。

司馬懿の頭の中でこれから起こるであろう事が猛スピードで計算されて…

引きつった顔で首をゆっくりと曹丕の方へ捻った。曹丕がそれを受けて

許チョを止めようと口を開いたが……遅く。

許チョは深々と突き立てられたフォークでケーキをえぐった。

こんな高いケーキの一部分を多く取ったらどうなるか。

許チョが満足そうにその場を離れていくが、彼の一歩一歩がケーキを揺らす。

案の定、ケーキは揺れと上の重みに耐えきれず、司馬懿達の方へ傾いてきて―――

逃げる暇もなく二人はケーキの下敷きとなった。










「馬鹿めがーーー!!!」





















「…何やら向こうが騒がしい」

「我関せず。曹仁殿、それがしらも一献」






平和主義でマイペースな二人は騒ぎには混ざらず部屋を見渡せる位置で酒を酌み交わしていた。

ホウ徳は自分を含めて三つの杯に酒を注ぎ込む。

……三?







「…殿……」

「張遼殿たちはいかがした」

「プレゼントを貰いました!」

「いや…そうではなく…」

「あの、惇兄知りません?」






逃げて来たのだな、と結論づけた曹仁は、外へ出て行ったとに教えた。

は礼を言ってから二人の杯に自分のを軽く当てて笑った。








「メリークリスマス!」

「「 メリークリスマス 」」



















部屋の外に出ると、中との温度差が激しくては自然と肩に力を入れた。

もらったマフラーを手袋をさした手できっちりと巻き、夏候惇の姿を探した。

…探すまでもなく、夏候惇は欄干にもたれながら酒をたしなんでいたのがすぐに目に入った。

足音を鳴らしながら近づき、なんだお前かという顔をして振り返った夏候惇に手を差しだした。









「……なんだこの手は」

「夏候惇はプレゼントないの?」







笑顔で更に手を差しだしただが、何もくれないであろうことは分かっていた。

冗談交じりでそう言っただけで。

案の定、夏候惇から返ってきた返事は「ない」の一言だった。

はやっぱりというように笑う。








「ケチ」

「………」








そんなにため息をついた夏候惇は、階を降りて庭へと歩いていった。

辺りはすっかり暗くて、庭に降りたはずの夏候惇が見えなくなった。

独りになったは小さくため息をついてうつむく。










「おい」

「え…?」









すぐに頭上から声がかかり、何だと思いながら顔を上げると目の前に

一輪の花が差しだされていた。

葉もついていない質素な花だったが、その白い花びらが暗がりで輝いて見えた。









「あ…ありがと……」








そう告げると、夏候惇は何も言わず欄干に置いていた杯を口へ運んだ。

らしくない夏候惇の様子に、は顔が熱くなるのが分かり、

ばれないように顔半分をマフラーに埋める。

と、その時後ろで足音が止まった。









「抜け駆けとは感心しませぬな、夏候惇殿」

「ち、張遼…徐晃……お前ら、ケーキまみれだぞ」

「じきに貴公もこうなるでござるよ」




「「 いざ参る!! 」」

「やめんか!!!」









シャンパンの栓を夏候惇に向けて飛ばす張遼。

それを避けた夏候惇だが、そこへ飛んできたケーキを避ける事はできなかった。

さすがの夏候惇もこの二人のタッグには勝てなかったようだ。

三人の激戦はまだまだ続く。










そんな三人の騒ぎに巻き込まれないように少し離れた所で欄干に腰をかけた。

そのまま空を見上げると星がはっきりと見えて。

そして貰った花に視線を戻すと先ほどの出来事が思い起こされ

自然と笑みがこぼれた。










「ありがとう」









そう小さく呟いたは、花にそっと口づけをした。






















メリークリスマス、メリークリスマス。

騒がしい魏国の聖夜に祝杯を。






















  + おまけ +













『陸遜くん、チャッカマンありがとう』

「いえいえ。お役に立ててなによりです」

『速達で送っておいたからね。そっちでもパーティ?』

「ええ…まあ」

『楽しんでる?よいクリスマスを』

「あなたも」






通話を終了した陸遜は携帯を折りたたんで懐にしまう。

そして部屋を見回してぼそっと呟いた。






「…楽しんでいる、とはとても言えませんね……」






机に伏している人たちを見た陸遜は、次は自分の番かと震えたのだった。

呉では、恐怖のクリスマスパーティはまだまだ続く…。

















  END






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クリスマス記念の魏軍夢でした☆
オチが弱くてアレですが…;
もはや何でも有りです!!

呉・も書くつもりでしたが…間に合いませんでした;
ので、ここで少し紹介。。

呉→夢主・大喬の作った料理と尚香・小喬の作った料理があり、
   それを並べた机を回して止まった所の料理を食べるという
   ロシアン・ルーレットパーティ。。
   尚香宛に劉備からプレゼントが届く…等々。
   宅配を「無双急便」にしようか、ゲスト出演で「ストライフ・デリバリーサービス」に
   来てもらおうか迷っていた(笑)FF7AC〜

蜀も書きたかったけど…ネタが思いつかなかったので、どのみち書けなかったと
思われる(コラ)

それでは皆様、よいクリスマスを…。。


                 ++ 2005/12/24 美空 ++