「年に一度のクリスマスー楽しい楽しいクリスマスー…」
「暗……!」
「どうしたんだよ、こいつ」
パーティの準備なのか、最後の大仕事、ツリーへの飾り付けをしながら声に抑揚のない陸遜に
甘寧は聞かない方が賢明かもと思いつつも問いかけてやった。
おいおい、やめとけよと凌統が引き気味の目で見る中、甘寧の問いかけには飾り付けの手を動かしながら呂蒙が答えてくれた。
苦笑いを添えて。
「コレをうっかり貸してしまったそうだ」
“コレ”と言いながら顔の前で人差し指を数回動かしているのを見て、
甘寧・凌統は「あー…」と乾いた笑みを浮かべながら納得の意味で頷いた。
「チャッカマン、ね」
聖夜絵巻 - 孫呉編 -
「そんなに落ち込むぐらいなら貸すなよ…」
「大体、借りにきた奴も奴だよな。一体どこのどいつ?軍師さん」
「魏の方へ……」
「「 遠っっ 」」
だって、しょうがないじゃないですか。あの人に頼まれでもしたら二つ返事で貸してしまいますよ。
と小さな声で言い訳する陸遜に『あの人』の名前を聞き出した二人は
分からなくもないと言いたげに頷いて肩を叩き、別国でありながらも女という事で貸し与えた彼に呟いた。
「陸遜も男だったんだな」
「男ですとも」
「おい…いい加減に手を進めないと俺は助けんぞ」
若き三人の男談義を聞き流しつつ、着々と手を動かしていた呂蒙が言った『助けない』とは
飾りを手伝わないという意味ではなく、完成していなかった時の女性陣…とりわけ尚香からの
抗議からという意味であり、それを何となく察した三人は押し黙り、黙々と手を動かし始めた。
脅した成果もあってか、作業は着実に進み、あとは大きな飾りを付けるだけとなった所へ
「お、大分完成したようだな」
「殿!」
「もうそんな時間ですか」
「いや、俺も手伝っていた所だ」
「殿が!?」
いくら大がかりなパーティだとしても、孫堅の手まで借りているとは…と呂蒙が申し訳なく頭を下げた。
そんな孫堅は何を言うわけでもなく、ただ笑って呂蒙の頭を上げさせ「俺だって楽しみに参加したい」と
部屋の中心を指さした。
「俺は机係でな、今設置を終えた所だ」
「おっ円卓じゃないスか!」
「いいねぇ、無礼講っぽくて」
「はっはっは。そういう主旨も兼ねている。料理は今大喬たちが用意しているそうだ」
「ふーん、そういえば姫さんとは?」
「さぁな。他の準備やってんじゃねぇの」
円卓を見ながら、そこへ並ぶであろう料理に思いをはせながら、料理が不得意であると認識されている
尚香との姿が見えないので凌統はぐるっと見渡したが、この場には見つけられなかった。
そして円卓に視線が戻り、その卓が料理をぐるっと回せる形になっており、卓によっては
取り合いになること間違いなしであろうことが想像できた。
「できればお前たちとは座りたくないものだ…」
「え?なんで?」
「いや……」
「やだなぁ呂蒙殿。いくらオレらでもそんな子供じみた事しませんって」
「そーそー……ってああ!?凌統っそれはオレが付けんだよっ」
「はぁ?オレがやるっつの。一時でもあんたがオレの上に居んのは不愉快だからな」
「オレがやんだよ」
「オレだっつの!」
みろ、言わんこっちゃない。
呂蒙が深くため息をつき、しゃがみ込んだまま、まだツリーの下の方の飾り付けをしている陸遜に
視線を向けたが、更にため息が深くなるだけであった。
二人の星争奪戦は、孫堅が「俺もつけてみたい」と漏らした言葉に、二人同時に星を差しだして決着した。
どうやらパーティの準備はこの仕事が最後であったらしく、孫堅が星をつけ終えるとどこからともなく
歓声と拍手がわき起こった。
孫堅も大きなツリーを見上げ、満足そうに鼻を鳴らした。
皆しばらくツリーを見上げていたのだが、かすかに料理の香りが漂い始めたのに振り返ると
女官たちが次々と料理を運び込んできた。
「あっ凌統、甘寧、陸遜!ちょっと運ぶの手伝ってほしい!」
「へいへい」
「、軍師さんは駄目だね。逆に皿ごと落としかねない」
「いえ…お手伝いしますよ」
「どうしたの陸遜」
手にしていた大皿を卓の上へと並べながら、は甘寧が呂蒙づてに聞いた陸遜の事情を聞いたのだが
人づてに話が広がっていく様に、口を挟まない所をみるとかなり重症のようだ。
は哀れみの目で陸遜に近づき、ぎゅっと手に何かを握らせ肩を叩いた。
「チャッカマンには負けるかもしれないけど、これで元気出しな?」
「……」
陸遜は従妹であるの優しさに感動しつつ、ゆっくりと手を開くと同時に両側から凌統たちも覗きこむが
目に映った物をみて鼻で笑った。
「マッチじゃねぇかよ」
「何をあげるのかと思えば…」
「仕方がないでしょ」
「いいえ…お心遣いありがとうございます」
力なさげだが、嬉しそうにはにかんだ陸遜は、ふっと二人を振り返って表情を変えてみせた。
「私の従妹を悪く言わないで頂けますか」と笑いながら手にしていたマッチをこれ見よがしに
数回振って音を立てさせた様はまさに陸遜の裏の顔だった。
「お前…女に顔良すぎだぞ…」
「軍師さんって存外たらし傾向にあんのね…」
「失礼な…」
三人の会話はに聞こえないように交わされており、は自分が入り込めないと分かると
せっせと卓の支度を続けていたが、思い出したように顔をあげ、三人の方を見やった。
するとそこにはもう陸遜の姿はなく、まだ影を背負った背中をこちらに向け、別の卓へと移動していた。
ふむ、と小さく息をつくと、その背中を見たまま口を開いた。
「そう言えば陸遜、今日は司会進行役なんだけど…あの調子じゃ無理だろうなぁ」
「は?何、そうだったの」
「誰か代わりの人いないかなー…」
いないかな、と言いつつも、その声色は全然困っておらず、わざとらしい。
嫌な予感がした凌統はと視線を合わさないようにしていたのだが、かえってそれが仇となり
チラッと視線を向けるとも甘寧も凌統を見ていた。
「は?」
「えー、陸遜に代わりまして、司会進行をさせて頂きます凌公績です…」
なんでオレが。
そう思いながらも任されたからには、それなりに仕事をし、孫堅へと話の流れを譲ると
そそくさと席へと戻っていった。
席では「良かった良かった」と肩を叩くの隣に座り、杯を受け取った凌統は
落ち着けるために一つ息をつき、孫堅の言葉を待った。
「皆、準備ご苦労であったな。今夜は見ての通り無礼講だから、たんと飲むと良い。
だが、ここで潰れても放っておくからそのつもりでな!」
「それではメリークリスマス!孫呉に今まで以上の安らぎと幸せを!」
高々と杯を上げて乾杯をすると皆の意識はもう目の前の料理に向いており
他愛ない世間話で場が盛り上がっていく。
そしてここ、が座る卓では
「おいこら甘寧!勝手に回すんじゃねぇっ」
「何言ってんだ、回さねぇと取れねぇだろーが」
「それはオレが」
「オレだって」
「お前らは本当…俺を裏切らないな…」
「りょ、呂蒙さん…まぁ一杯」
案の定、呂蒙が想定した通りの展開になってしまい、その呂蒙は止めることも諦めてしまっていた。
は苦笑いを浮かべながらも酌をし、腰を浮かした。
「皆が倒れ………潰れないうちにお酌して回ってきますね」
「ん?おお、そうか」
危ない危ない。危うくこれから起こる事を知らせてしまう所だった。
は胸を撫で下ろしながら一つ一つ卓を回る。
「おう!メリークリスマス」
「メリークリスマス、孫策さん、周瑜さん」
「楽しんでいるかな?」
「ええ。大喬ちゃん、小喬ちゃんの料理が美味しくて、こっちでは取り合いですよ」
そう言って今離れてきた自分の席を指さすと、どっと笑いが起こった。
プレゼント交換はもうされたのですかと問いかけると、待ってましたと言わんばかりに
袋にあった衣服を引っ張り出してきた孫策の表情は幸せそのもので。
「ちなみに周瑜と同じなんだぜ〜」
「お姉ちゃんと一緒に作ったんだよぉ」
「ありがとう小喬」
「周瑜サマもありがと!あたし、大事にするねっ」
「孫策様…私も、ありがとうございます」
段々とこの場所に居づらくなってきたは、幸せいっぱいのこの卓を笑顔で後ずさりながら立ち去り、
別の卓へと移動した。
そこは、すでに出来上がった孫権と周泰、孫堅や黄蓋、尚香たちが座っており、
中でも始まるまでは落ち込んでいた陸遜がお酒で頬を赤らめて笑っていた。
調子戻ったみたいだな、と話しかけると皆の視線が一斉にに集まり、異口同音に言葉を発した。
「メリークリスマス、」
「ふふ、自席の喧噪から逃げ、あちらの幸せオーラに当てられ、こちらへ来ちゃいました」
「では注いで貰えるか?」
「はい、もちろん」
「良い所にきた、。これから幼平の武勇伝を私から伝えようと―――ぉお」
…飲み過ぎです、孫権様。
とたしなめながら、ふらついている孫権を介抱している周泰はどことなくいつもより楽しそうで。
小さく笑みを浮かべていたは陸遜に声をかけようとしたが、それは尚香の呼びかけで中断された。
「ねぇ!!こっちこっち!こっち来て」
「なになになに?」
尚香に腕を引かれ、一度部屋の外へ出ると温度の違いが大きく、思わず肩をすくめた。
一緒に出てきた尚香は何やら小さい箱を取り出すと、開けてみせて嬉しそうに笑っている。
その頬が赤く染まっていたのは、この回廊が寒かったからではないのだろう。
「これ、玄徳様が私にって贈ってくださったの!」
「劉備殿が?」
「そうなの!私もう…嬉しくて…」
始めは誰からか分からなかったという。
開けてみると耳飾りが入っており、劉備からのメッセージカードが添えられていたとの事で
なんと洒落た事をしてくれる蜀の殿様よ。そう思いながらもは笑っていた。尚香の幸せな表情につられて。
「陸遜なんか、大っぴらに魏と交流しているんだから、尚香も…」
「良いの。こういうのも、嬉しかったり楽しみに思えたりするもの」
「そっか」
実はね、私も贈ってあるの。
そう語る尚香は女のから見ても可愛らしく、そしてどことなく大人びて見えた。
大喬も、小喬も。皆幸せそうに笑っているのを見ていて、羨ましいと感じた自分には驚きながら
ふと自分の手のひらを見つめた。
「は…」
「私は何も。誰にも」
「ふーん…」
「何?」
「別に」
渡さないんだ。
そう言われているようで、ついと視線を反らしたが…尚香にはどこまで知られているのやら見当がつかなかった。
は自分を笑うかのように唇の端をあげ、尚香を見た。
「冷えてきたし、はやく中へ戻ろう」
「そうね、確かに寒いわ」
尚香に腕を絡ませ、出てきたときとは逆にが引っ張る。
中へ入ると、所々で人が俯せているのがよく分かり、尚香達の卓へと戻るとすでに孫権もその状態であった。
は孫権を介抱する尚香から離れると、先ほど声をかけられなかった陸遜の傍へと歩み寄り
「さっきより元気そうだ」
「ええ…実は連絡がありまして、貸していた物を速達で送り返してくれるそうです」
「連絡っていつの間に…しかも速達って…」
「良いじゃないですか。それより、メリークリスマス」
酔っているのだろうか。
陸遜は破顔しながら立っていたの腰に腕を回して抱きつき、ぎゅっと力をこめる。
相変わらず仲良いわね、とからかい口調で言ってくる尚香に困った笑みを浮かべながら陸遜の頭を撫でた。
「酔ってるのー陸遜?」
「酔ってませんよーほら」
「うわっお酒くさ…」
へらっと笑いながら額同士が鈍い音を立てるまで引き寄せてきた陸遜はめずらしく相当飲んでいるようだったが
が顔をしかめたのはその酒臭さではなく…それもあるが、腰を曲げたままの状態が苦しかったからで。
従妹同士でなければ、端から見るとただの恋人同士のじゃれ合いにしか見えないこのような状況に
周りの者はもう慣れていた。
「おい、そろそろ戻ってこっちにも酌しろっつの」
「わ、分かってるって。じゃあ陸遜、潰れないように」
「ほい、撤収」
いきなり両脇から腕を回されると、そのまま引きずられるように陸遜と別れ
顔を上げると凌統と甘寧の横顔が逆さに映った。
あんた達がうるさいから離れたんだろ、と小さく毒づいたが、席についた二人はうって変わって静かで
同時に杯を差しだしてくる。
横目で他の人を見れば、呂蒙と太史慈がほろ酔いで何か話し込んでおり、卓の中で真っ二つに別れたような状態になっていた。
「はいはい。今注ぐから」
「なあよ、お前はプレゼントないのかよ」
「まさか軍師さんへのマッチが、って言うんじゃないだろ?」
「私が誰にあげるっていうのさ」
「オレ」
「はぁー!?あんた、図々しいにも程があるっつの」
「はん、手前ぇなんかが貰えるとも思わねえけどな」
「んだとコラ」
を間に挟み、頭の上で罵り合う二人に辟易してきたのか、は青筋を立てながら
二人の目の前に皿を置いた。
それもドンっと音をたてて。
「じゃあこれあげる。私の手作り」
「げっ…」
「な…んでが作ってるわけ…?」
「お手伝いしたんですー。どこの卓に混ざってるか分からないのが面白いかなって」
「自分で面白がるなよ!」
会場の準備に姿が見えなかったはずだ。
まさか二人とも料理の手伝いを…?と恐ろしい疑問が頭をよぎった二人は無意識に他の卓を見渡すと
いくら無礼講だからといって、俯せている人が多く…見えるのはなぜだ。
冷や汗が二人の背中をつたい、酔いが一気に覚めていくのを実感した二人は、手前の料理に目をもどした。
見た目は他と変わらない。が、の料理は、見た目は良いが味が悪いのだ。いわゆる味音痴。
ゴクリと唾で喉を鳴らしたのは、美味しそうだからではないという事は二人の表情を見れば分かる事で。
この見た目に騙されて、何度意識を手放した事か…。
そんな二人を試すように「召し上がれ」とこんな時にだけ言葉遣いを女っぽく戻すは更に言う。
「遠慮せずにどうぞどうぞ」
「喰って…やろうじゃねぇか」
「いた、だきます」
「お前、これ全部喰ったら一つ言う事聞けよ」
「それ…賛成」
「食べられたら、ね」
覚悟を決めたのか、二人はレンゲを手にし一気に口へと頬ばる。
としては、今まで散々自分の料理の味が悪いという事は言われ続けているので
ちょっとしたゲーム感覚で大喬たちの料理の中に皿を混ぜてみただけだったのだが、こんな所で使えるとは。
これで二人も静かになるだろう。
頬杖をついて二人の様子をみながら更に口を開いてやった。
「私からは心のこもったプレゼントがあるのに。甘寧と凌統からはないのー?」
「この飯を、全部喰ってやんのが、オレからのプレゼントだと思え……」
「オレは……」
甘寧は半ばやけくそに詰め込みながら、どの辺にどんな心がこもってんだよ、と悪態をつきながら食べ進める。
凌統は言葉少なに黙々と目の前のものと戦っていた。
そして、ついに甘寧が切れた。
「っだーー不味い!お前、ちょっとは腕あげ」
「堕ちろ」
「っ―――……」
「ちょっと甘寧、全部食べるんでしょー」
「あんた今…堕ちろって言ったよ……」
甘寧の一言に更に青筋を浮かべたは皿を甘寧に押しつけて強制ノックアウトさせる。
静かになった、と一息ついているに、ライバルの脱落に喜ぶ気も失せ、それでも黙々と食べ続ける凌統。
暇になったのか、何度作っても美味くならない自分の腕に対する情けなさを誤魔化したかったのか
は自分で酒を注ぎ、一気にかけこんだ。
「降参、して良いんだから。それだけも食べらんないって。陸遜だって」
「あのね。オレ、あんたによく試食させられたから耐性ついてんの。だから…喰うよ」
「へぇ…じゃあ始めから少し有利だったわけだ。狡くない?」
「何が。だってオレ、アンタからの、プレゼント欲しいし」
口内に何とも言えない味が広がる度に言葉に詰まるが、それでも凌統は咀嚼して飲み込む。
はまた一杯酒を注ぎ、一口だけ口にした。
そして水を用意してくると席を外そうとするが、凌統がそれを止める。
「ちゃんと見てないと狡、するかもよ」
「馬鹿じゃないか。そんな事する奴がここまで食べないよ……馬鹿。プレゼントなんて…用意してないのに」
「ある。さっきこの馬鹿が言った、一つ、言う事聞くってやつ」
まるでこれで終わりだとでも言うように、皿に残った全てを口に含み、喉に下しきった凌統は
が差しだした水代わりの酒を一息に飲み込んだ。
更に、酔いたいんだとでも言わんばかりに酒瓶に口をつけて飲み干し、勢いよく音をたてて置いた。
「っだーー喰ったぞ。喰ったからな、」
「はいはい…もう私が降参だよ。呆れるね」
「ん…じゃあ一つ、聞けよ」
降参と言いながら両手を軽くあげ、息をついたは凌統の言葉を待つ。
凌統は椅子を寄せ、に向き直り、酔いで据わった目を向けながらの手首を掴んだ。
「オレの事好きになって」
「オレの事、考えて」
「今日…オレの部屋、来て」
「〜〜この、酔っぱらい!」
「ぃっつ――!」
は、言われた内容に驚いて目を瞬かせるばかりだった。
酔っている二人は体温が高く、握られた手首がやけに熱い。
何も言わないに、凌統は腕を引いて更に近づいた。
しかし、最後に言われた言葉でははっとし、気が付けば凌統の頭を小突いていた。
頭に響いた衝撃で凌統の手の力が緩んだので、距離をとろうと思えばとれたのだが、はそれをしなかった。
怒りでそんな事考えもしなかったとでもいう風に腕を組み、そのままの距離で凌統に突っ込む。
「まったく……たしか言う事は一つじゃなかった?」
「何でも良いんだろ」
「最後のとか…最初のも。却下だからね」
「んなこと、言うかっつの」
「じゃあ何。碁ぐらいなら付き合ってあげるよ」
「馬っ鹿。んなのいつだって誘えるって」
一つ目と、三つ目の頼み事。
言われたらどうしようかと焦って釘を刺したは、それをあっさり承諾された事に対して
自分が思いのほか落胆していることに気付く。
そして、それさえなければ何でもこいと、受け入れ体制に入ると何だか楽になった。
もう驚く事はない。凌統も、もう冗談は言わない。
「じゃあ…陸遜とベタベタすんの、やめて貰える」
「…へ」
「それさえやめてくれれば…一つ目も二つ目も。自分で頑張るからさ」
「あの…凌統それって……いや、でも私達そんなにベタベタしてないよ」
「してるっつの。オレ、それ見てんのしんどいんだわ」
「しんどいって…別に私たち従妹だし」
「ヤなの」
はここで初めて凌統と距離をとろうと頭が働いた。
それは怖いからでも嫌だからでもなく、その直球なんだか遠回しなんだか分からない物言いが
何だかとても恥ずかしくて。……逃げたかった。
「凌統っ…酔ってるでしょ」
「酔ってる」
「だろうと思った!」
「酔ってるけど、これホントなんだよね」
「〜〜この酔っぱら…」
「。オレの部屋、来て」
ガタっと大きな音を立てて立ち上がり、後ずさったを上目使いに見上げ、凌統は更に続けた。
碁、一局付き合ってと。
碁なら付き合うって言ったよな、なんて酔っぱらい独特の緩みきった顔で笑う凌統に
「絶対行かない!」
恥ずかしさが限界点まで達したは、震える拳で凌統を思いきり殴り飛ばし走り去った。
碁なら付き合うっつったじゃん…と床に倒れた凌統は、本当にそれ以上考えてもいなかったのだが
誘い方とタイミングが悪かった事に気づきもしないで睡魔とともに潰れてしまった。
「私の従妹をたぶらかすなんて…凌統殿」
「良いじゃない、だって凌統の事……って、陸遜それしまって!」
届いて嬉しいのは分かったから、すぐにしまって!
魏から届いたばかりのチャッカマンを手にし、嬉しそうに、憎々しそうに微笑む陸遜が
次の日から本当にスキンシップを控えられてしまい、また落ち込んだ事は別のお話。
「なぁこれ、今朝気づいたら掛けられてたんだけど…全然覚えてないんだよね」
「ふぅん、良かったじゃないマフラー」
「うん。用意してないとか言ってたくせに、ありがとさん」
「なっ…私に言うなよ!」
「あ、。今度甘寧とあんな勝負するの禁止ね」
「はいはいはい」
燈花の素っ気ない返事が可笑しくて
メリークリスマスと、笑いながら言った凌統に
昨日の話じゃない、と毒づきながらも同じ言葉を返した。
でも、こんな騒がしいクリスマスも、良いかもしれない。
は笑って隣を歩く凌統の手を取った。
雪なんか降らなくても
君がいればそれでいい
今日は言えなかった言葉を
きっと君に伝えよう
昨日言えなかった言葉を
今日伝えられたように
END
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・○
クリスマスに間に合いました。
そしてごめんなさい。魏編での最後、陸遜の振りが全く関係ないものになってしまいまして;
ロシアンルーレットは…無理だった…
と、所々繋げてみたので…そこでお楽しみ頂けると嬉しいです。
来年は蜀編、書けると良いな。
++ 2007/12/24 美空 ++