双子の兄、陸遜が殿に紹介してくれ、兵の一員となれた。
今はその兄の執務室で椅子に座り、書籍を読んでいた。
コンコンッ
扉を少し強めに叩かれる。
「誰ですか?」
「オレ、オレ。オレだけどよ、入っても―――」
「僕には息子も孫もいませんので、オレオレ詐欺はお断りの方向で―――」
「だぁーれがオレオレ詐欺だっっ!! 」
鏡 [2]
バンッと扉が乱暴に開かれる。
「これはこれは、甘興覇殿」
「…その物言い、おまえ弟だな?陸遜はどうした。それにオレオレ詐欺はもう古いぞ」
「いっぺんに喋らないでくださいよ。伯言ならちょっと出てますけど?」
「あー…そうかよ。……ん、じゃあ弟。お前ちょっと付き合ってくれよ」
「どこまでですか?手を繋いでデート…まではできますが、それ以上はちょっと……」
「……悪ぃ。頼む相手、間違えたわ」
「ちょっ何ひいてるんですか鈴の興覇殿!冗談だって!」
後ずさりしで部屋を出ていこうとする甘寧を呼び止めた。
声が本気だったぜ…と引きつった笑いを浮かべながらを見る。
そういえば。
「何でオレの名を知ってんだ?」
「伯言に聞いてるから」
「あっそ…でもオレ、お前の名前知らねぇんだけどよ?」
「僕?僕は。陸。字はですよ〜」
知っての通り、伯言の双子の弟です。
そう言ってにっこり笑った顔は、当たり前だが陸遜そっくりだった。
「で、何に付き合えば良いんでしょう?」
「あぁ、手合わせ、付き合ってくれねぇか」
「僕が?この前入った、いわば新参者ですよ?相手にならないって!」
「陸遜の弟だし、大丈夫なんじゃねぇの?」
「関係ないッスよ……」
相手にならないと言い張るを強引にひっぱっていく。
ズルズルと引きずられているが後ろでぼやいた。
「人さらいって本当に居たんですね…初体験だぁ」
「〜〜〜っお前と話してると頭が痛ぇよ」
「それは大変だ」
はぁ、と盛大にため息をつく甘寧。
陸遜の苦労を垣間見た気がした。
「そっか。今は振り込め詐―――」
「や、それはもう良いって」
鍛錬場についたので、さっそく始めようと武器を構える。
それに合わせても構えをとる。
二人はジリジリと間合いをはかり、お互いの目を見ている。
甘寧がツッと足を半歩出した時だ。は一気に飛び込み、斬りかかる。
甘寧はそれを素早く受け流し、こちらも剣を振る。
剣同士がぶつかり合い鈍い音を響かせる。
互いに攻防を繰り返していたが、だんだんの方が防御に徹してきた。
それを期に甘寧が暇を与えず打ち込み、それを必死で防ぐだが、
一振り一振りの剣の重さに足下がグラつき、もつれた。
倒れ込んでから慌てて起きあがろうとするが、遅く。
剣先を突きつけて甘寧はニッと笑った。
「オレの勝ちだ」
「……ちぇっ、なんか悔しい!」
そりゃあ、勝てるとは思ってなかったけどさぁ…と地面に大の字に寝ころんで
ぼやく。
その隣に腰をおろし、の顔をのぞき込む甘寧。
「でもお前、やっぱ強いじゃねーか!頑張れば陸遜なんてすぐに
抜くんじゃねぇの?」
「あ、それ目標です。伯言より強くなってやるつもり!」
身体を起こして甘寧を見る。
「まっ、せいぜい精進しろよっ」
「…そのうち鈴の興覇殿だって抜かしてみせる」
楽しみにしてるぜ〜と言いながら鍛錬場を去っていった。
その後ろ姿が見えなくなったところで
「………あ〜〜疲れたっ!」
再度、大の字になって寝ころぶ。
やっぱりと言うか、甘寧は強かった。
一人こう疲労して、甘寧は息一つ乱れていなかった。
それに加え、一撃一撃が重くて反撃をさせてもらえなかった事が悔しくて。
「絶対強くなる!」
そう意気込んで拳を前へ突き出したとき。
「あら、気合い入ってるわね」
「そりゃあ仕官したからには強くなって――――?」
「強くなって?」
「しっ尚香様っ?!」
尚香がの顔をのぞき込むようにして問うてきた。
これに驚いたはバッと飛び起き手を合わせる。
孫家の姫は笑って顔の前で手を振る。
「そんな堅苦しい事しなくて良いわよ」
「は、はぁ…」
「それにしても、本当に陸遜に似てるわね!
同じ服着たら見分けつかないんじゃない?」
「鈴の…甘寧殿も分からなかったみたいです」
まぁ、あれはわざと伯言の真似をしてたのですがね、と付け加える。
「その話、聞いたわよ〜?周瑜も呂蒙もびっくりしたって言ってたわ」
「あは、あはははは…」
「見分け方とかってあるの?」
「そうですね…しいて言うなら僕の方が男前―――」
「そっくりなんですから同じですよ同じ!」
「げっ……」
声の方に視線をむけると戸口に陸遜が立っていて。
とりあえずは、すこ〜し頭にきているであろう陸遜にむかって
えへっと笑顔を作ってみる。それに答えて陸遜もニコッと笑うが、次の瞬間
の両頬を容赦なく引っ張る。
「あなたという人は、私の居ない所ではいつもこんな事を言っているのですか」
「ひょっ…ひょっほひっへみははへ……(ちょっと言ってみただけ)」
痛いので、はやく陸遜の手を引き剥がそうと手を引っ張ると……
「いひゃっ!!」
「…あなた馬鹿でしょう……」
余計に自分の頬が伸びて。
でも、弟の馬鹿な行動に呆れて陸遜が手を離したので結果オーライ。
その様子を始終見ていた尚香は耐えきれず吹き出した。
「あはははっ!、男前な顔が台なしよ!」
「ぃたた…そんなに笑うことないじゃないですかっ」
「だ、だって…」
まだ腹を抱えて笑っている尚香に、恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
その二人をやれやれと見ている陸遜はこの調子ならすぐに他の人とも馴染める
だろうと胸をなで下ろす。安心した陸遜は、もう行く事を二人に告げる。
「では、私はまだやることがありますので失礼します」
「は預かっておくわね〜」
「伯言、ありがと」
では、と鍛錬場を後にした陸遜。
「どうして“ありがとう”なの?」
「心配…してくれてたんだと思うんです、みんなと馴染めるか。
朝も、用で出ていく時、一人にして大丈夫かなって顔してましたからね」
「へぇ〜、じゃぁ今を置いて出ていったのは…」
「大丈夫って思ったからじゃないですかね。きっと」
最初は“さっさと帰れ”って言ったくせに。
そうぼやくが、の表情は嬉しそうだ。
「とても良い人ばかりだと聞いているので、はやくみなさんと話してみたいです」
「ええ、みんないい奴よ」
困ったことがあったら私にも言ってね、と尚香は笑った。
それに、ありがとうございますっ、ともまた笑った。
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これを執筆していたころは、はやってたんです。
詐欺が(笑)
++美空++