月明かりの下で / 前
















「甘寧殿、殿を見かけませんでしたか?!」
















一人の護衛がバタバタと慌ただしく鍛錬場に入ってきた。
聞けば、執務を放り出してどこかへ行ってしまったらしい。
甘寧はため息をつく。
















「またか…だいたい見当つくからオレが連れてきてやらぁ」













そう言い、目的の場所へ歩きはじめる、背後から『毎度申し訳ありませんっ』という
声がかかったのに対し、手をひらひらっと振って答えた。

毎度。そう、毎度なのである。が執務を放り出す。
そして、どこかに行ったを探すのが甘寧だった。













「…まぁ、あいつに机仕事はむいてねぇよな」














独りつぶやく。どうせ今日もいつもの所で剣を振っているのだろう。
城門を出てしばらく歩くと河がある。河に沿って更に歩くと、太くて大きな木が
見えてくる。はいつもそこに居るのだ。
















「やっぱり…」
















一心不乱に剣を振っている。その姿におもわずため息が出てきた。
何しろ上の服は木にかけていて、上半身は布を巻いているという格好だからだ。
おもわず頭をおさえ、その場にしゃがみ込む。
















「別に……別によ、素振りをするなとは言わねぇ。でもよ、普通そんな格好で
 素振りはせんだろうよ…」

「あら甘寧。また呼びに来たの?」

「ああ…泣いてたぜ〜奴。お前が度々抜け出すからよ」

「でもさ、私に執務は無理でしょ。甘寧と一緒で莫迦だから」













はははと笑うを、一緒にするなと小突く。


















「っつーかお前、その格好…女じゃねぇだろ」

「失礼な。このちょうど良い大きさに育った胸を見ろ!」















布の巻かれた胸を指す。また盛大にため息をつく甘寧。















「魅力が皆無に等しいぞ。そんな格好見たって、欲情のヨの字も出てこねぇ」

「私は甘寧見てるとムラムラするわ」

「いや、されても困るって」

「冗談に決まってるじゃない」













いつもの速い調子で言い合って、はようやく服を着る。
はた、と目が合うと二人同時にニッと笑い出した。
















「帰りますかっ」

「そうだな。あ〜オレも鍛錬の途中なのによっ」

「相手してあげよっか?」

「お前は執務だろーが」

「うっ…手伝って!!」













冗談じゃねーぜ、と笑いながら言って少し前を歩く。
それにケチッと拗ねた口調で追いかけて甘寧の横を歩く












つかず離れず。それはとても心地よい距離――――。






















      ++++++++++++



















「勝負ありだな。ここまでにするか」

「うん…あ〜お腹さえへってなければ甘寧なんて、けちょんけちょんに…」

「まだまだ甘いぜ。それにオレだって腹へってるし、五分五分だ」

「くそー…」

(正直、これ以上強くなられても困るんだよな男として…)












これ以上…甘寧以上強くなられては、武将として…男として形無しなのである。















「…おい、飯喰いに行こうぜ」

「奢りなら行ってやらんでもないわ」

「ばーか、割り勘に決まってんだろ」

「甘寧って!女の子に金、ださせる気?!」

「女の子ぉ〜?なかなか笑えるぜ?そのセリフ」

…一人で笑ってろ。はやくご飯食べにいこっ!!」

「おっおい、待てよっ!」















街につき、こころなしか機嫌の悪いと飯屋を探していると、人だかりが目に入った。
男達が女にいいがかりをつけて脅しているという光景だ。
やれやれといった様子で見ていると、男が腰にさしていた剣を抜いた。
周りの人々は我関せず状態になっていて、助ける気配がない。
チラッとを見ると














「…男ども、許せない」















見過ごすつもりはないらしい。…もちろんオレもだ。











「いくぞ、
「うん」












そこからというものは、二人の連携によりあっという間であった。
ごろつき相手だ。剣すら抜かずして撤退させた。












「お決まりのセリフ聞きたかったかも…」

「ははっオレ達相手に二度も挑んでくるわけねーよ。…平気か?」

「あっ…は、はい……あの、ありがとうございましたっ」

「たいした事してねぇって。あんた可愛いから、これからも気をつけないといけねぇな」















ポンッと頭に手をのせ、はははと笑う甘寧。
女は、そっそんな事は…とうつむいて顔を紅潮させている。















、お前もこれくらい可愛げが――――」















思いついたように言いながら振り返ると、の姿が見あたらなかった。
あれ?と周りを見わたすが居ない。















「あの強い姉ちゃんなら飯屋の場所を聞いてさっさと行ったぞ?」

「なっ!!」

「兄ちゃんらが仲良くやってるの見て“阿呆らしい”とか言ってよ。
 あれは怒ってたんじゃないの〜?」

「はあ?!何なんだアイツさっきから…」












その人から飯屋の場所を聞いて駆け出す。その人は甘寧の様子に
分かってないなぁと肩をすくめた。














!行くなら声かけろよなーっ」

「あら甘寧、はやかったのね。ゆっくりしてて良かったのよ?別に」

「何言ってんだ。お前を飯に誘ったのオレじゃねぇか!一緒に喰おうぜ」

「っ……」













さらっと言い放たれた言葉に頬が紅潮する。
それが自分でも分かり、小さくため息をついた。
むこうにとっては、たいして意味のない言葉だろうから。
















「…やっぱり奢ってもらおうかな」

「なんでだよっオレ何も悪くねぇだろ?!」

「…ばーか。冗談よっ割り勘って約束だったでしょ!」

「だよなぁ!お前ってそういう奴だぜ!」












割り勘と聞いて安心したように笑う甘寧。
複雑そうに苦笑する













「…悪くないから…分かってないから余計たちが悪いのよ……」

「あん?」

「なんでもないわ」











泣きたくなるのをこらえて、目の前でせっせと食べている甘寧をただ見つめていた。














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なんか…やっちまいました(え)
こんなの甘寧じゃない;;
でも後編がありまして…読んで頂けると幸いです(涙)

                            ++美空++