「さがれっ出て行け!そなたの顔など見たくないっっ!!」















温厚な劉備が声を荒げ、怒りをあらわに怒鳴りつけた。

関羽と張飛はその義兄の様子に驚きはせず、それどころか二人も

怒りを耐えているようだ。そんな二人を尻目に、怒鳴りつけられた女――――

は目を伏せながら頭を下げ、冷ややかに声を発した。




















「仰せのままに」






















すっと身をひるがえし、静かに扉を閉じた。

劉備はその閉じられた扉をじっと睨みつけた――――
























 憎しみの果てにあるもの























は、劉備が義勇軍を立ち上げた時、兵に志願してきた女だった。

のちに死神が持つ鎌としてイメージされる、身の丈に不釣り合いな大鎌を

持っているのに加え、整った顔立ちに妖艶な雰囲気をまとっていて、いろんな意味で

人の目を惹きつけていた。













「なんでぇ、女か。大丈夫かよ」















張飛の言葉に怒るでもなく
















「その辺の民兵よりは腕がたつと自負しております」















淡々と言い放ち、口の端を少しあげた。

照れた笑いでも楽しいという笑いでもなく、の纏う雰囲気から艶を含んだ感じであった。

劉備はこの笑みから目が離せなかった。否、劉備だけでなく周りの兵達も

この笑みに惹きつけられていたのだった。




目が離せないでいる間、劉備は頭の隅にかかる小さなモヤを感じていた。

それはいったい何なのかは、この時にはまだ分からないでいた。












  ◇ ◇ ◇










は確かに強かった。

涼しい顔をして大鎌を扱い、顔色をかえず人の首をはねる。

張飛達はその武を褒め、宴では酒を交わし彼女を強いと認めたような口振りで

話しをしていた。…否、話していたのはもっぱら張飛達で、は時折返事をする

ぐらいで、自分から話すようなことはなかった。

乞われて舞った彼女の剣舞は誰もが息をのむほど美しかった。

華やかだったわけではない。力強かったわけでもない。

ただ、目が離せなかった。と同時に、どこかで小さな恐怖もあった。

その恐怖は自覚できるほども大きくはなかったが、劉備は初めて会った時のように

モヤのかかった感覚を再び覚えた。



剣舞も終わり、ふとの姿をさがすが見当たらなくて。

劉備はそっと席を立ち彼女の姿をさがした。

外に出ると一人で酒瓶をもったが地面に腰を降ろしていた。







殿?」

「劉備殿…どうぞ、とお呼び下さい」







劉備が声をかけると立ち上がり、手を合わせて頭を下げる。

そんな彼女を再び座るように促し、自分も心持ち距離をとって傍に腰を降ろした。

劉備が座るのをみとどけてから、また杯を口に運ぶ






「…では。そなたはなぜ女の身で従軍を決意したのだ?」

「女ではいけませんか」

「いや、そなたは強い。今回の戦でそれはよく分かった。
 ただ、どうしてだろうかと思っただけにすぎぬから、言いたくないなら別に――」

「…理由などいりますか」

「?」

「…ならばあなたと同じ、漢室復興の為――――」






そういうことにでもしておいて下さい。理由なんてないんです。ただ、なんとなく。


そう言って酒を杯に酌んだ。

そういう風に言われて腹が立ったわけではなかった。

悲しくなったわけでもなかった。

ただ、このつかみ所のない女性を困ったような顔で見ているしかできなかった。

この女性とこれからうまく付き合っていけるのか。

そう、思わずにはいられなかったほどに。







「…そうか。ならばそういうことにしておこう」








いつか、共に戦う理由をみつけてくれればと思う。

劉備は星空を仰いだ。

夜空は、いつもと変わらず穏やかだった。










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  劉備が怒ってます。
  温厚劉備が好きな方、ごめんなさい…
  でも、劉備だって怒ったり、人を嫌ったりするだろうと。
  そんなことを考えていて、思いついた話しがコレ。
  …夢主ちゃん、嫌われたらダメじゃん;
  こんな設定でも読めるという方は最後まで付き合ってやってください。。
  ほんと、設定が無茶苦茶なので先に謝っておきます;
  スミマセン!

  ++美空++