「馬鹿なっ!正義が屈するなど……っ!!」 片膝をついた馬超の前に立ち、嘆いている彼を は見下ろすような体勢で見ていた。 憎しみの果てにあるもの [4] 成都制圧戦では馬超を打ち負かした。 主君と喧嘩しようが嫌われようが、放逐されない限り武将であるの だから戦には出ている。 幸い謹慎も言い渡されず、今回出陣を命じられたは、劉備の本陣とは 離れた配置で参加している。 そんな、次々と現れる伏兵の相手をしていたに本陣が危ないという 知らせが届いたのは、敵援軍に西涼軍が来たというのとほぼ同時だった。 視界の悪さと、味方から離れていたので伝達が遅れてしまったのだ。 急いで救援に駆けつけようとしたが、西涼軍の大将である馬超が それを阻み、許さなかった。 「貴殿にはまず俺の相手をしてもらおう」 一騎打ちを申し込まれ、はそれを受けた。 劉備や諸葛亮らが耐えてくれていることを祈りつつ。 だが、心の底では焦りと、駆けつけられない苛立ちがわき上がっていて。 それは一瞬のことだったが、自分にそんな感情があったのかと驚いた。 「…大将直々の申し込み、お受け致しましょう」 だが、あまり時間はかけられない。早急に終わらせていただく! は勢いよく斬り込んだ。 「女といえど加減はせんっ!」 馬超も槍を突き出す。 こうして一騎打ちは始まり、そしてそれはの勝利に終わったのだった。 「…劉備殿の大儀と貴殿の正義とはどう違うのだ。何も違わない、何にも劣らない。 人の噂に惑わされず、貴殿のその目で確かめるが良い」 馬超の返事も待たずに、救援に駆けつけるため愛馬に飛び乗った。 不覚にも時間をかけすぎてしまった今、願うのはただ劉備の無事のみ――― ◇ ◇ ◇ 一人いないだけで、こうも戦況が厳しくなるものなのか。 西涼の馬岱率いる別働隊に本陣を襲われ交戦している最中に 劉備は改めての武の凄さを知った。思い知らされた。 かといってが来るはずがないし、待つつもりもない。 「顔を見たくない」そう言ったのは自分なのだ。 その言葉に嘘はなかった。顔を合わせた時、怒りを抑える自信がないのだ。 だが、国を出て行けとは言えなかった。 たとえ相手が憎しみの対象であっても、あの強さを失うわけにはいかなかったのだ。 …それだけだろうか。 ……いや、それだけだ。 風が交戦中の自軍と敵軍の間を通り抜けた。 その風に乗って、馬の蹄の音が聞こえてくる。 まさか……まさか。 「兄者っ!!」 「翼徳……っ助かったぞ!」 来るはずのない声を待っていた自分がおかしくて自嘲気味に笑みをうかべた。 待っているつもりはなかった。なかったのに―――― 張飛の救援によって戦況はひっくり返り、馬岱を追いつめる。 そこに、敵の伝令が駆けつけてきた。 「馬岱殿!馬超殿が蜀に降伏なされるとのことです!」 「何っ?!従兄上が?!」 信じられない、と伝令に来た兵を見やる馬岱。 そんな彼らの様子を見ながら、劉備と張飛は顔を見合わせ、首をかしげた。 大将が降るとなると戦っていてもしょうがない。 馬岱が先に剣をおさめ、それに続いて劉備と張飛も武器を引いた。 「しかし従兄上がなぜ……」 「それが、一騎打ちで負けられたとか…」 「――あの従兄上がか?!」 絶対的な武を誇る従兄が負けたという事実は驚きでしかなくて。 とりあえず従兄の所へ行くために馬岱は劉備に一礼をして立ち去った。 「兄者。たしかよ、あの辺は――――」 「ああ。やはり……強いな」 苦々しげに笑うことしかできなかった。 強い。強いのは認めるが……許すことはできない。 ◇ ◇ ◇ 救援に向かったに少し迷いが生じた。 このまま行っても…近づいても良いのだろうか。 そんな思いが頭をよぎり、頭を軽く振ってはらった。 馬の歩を更に速め、もう何も考えずに本陣に向かう。 たった一人の主君を助ける為に。 助けた結果が、また嫌われたとしても。憎まれたとしても。 ようやく本陣が見えてきて、もう少しだと思った矢先に目の前を 張飛が駆けていった。 きっと劉備の救援なのだろう。 ……一歩遅れた。 彼が居れば自分など居ても居なくても同じだ。 あの時、近づくのを躊躇った自分に後悔した。いや…… (そう簡単に近づいてはいけないという事か…) むしろほっとした。 もう、あの人のあんな目は見たくないと思ったから。 少しの間その場に立ちつくしていたが、思い出したように敵大将を目指す。 今、自分がすべき事は張飛の後を追うことではない。 元々近づくことを許されてはいない身なのだから、救援は彼にまかせ 自分は進軍すべきだ。 蜀のために。劉備のために。 こうして敵大将は討たれ、成都制圧は無事に成功した。 風が、成都の竹林を揺らす。 NEXT→ ○・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 書いていた頃は無双3だったのですよ。 だから馬超登場も3設定。 ここから馬超、でばってきますよー。 馬岱も好きなので出していけたら良いナ〜。。 ++美空++ 2005/9/21 |