逃げてきてしまった。
でも…あんなお似合いな二人と同じ部屋に居るなんてできないよ…
あたたかいひと [3]
「さっきの人にも悪かったな…ぶつかっちゃって」
しかも!ろくに謝らずきてしまった…あぁ、なんて日だ。
厄日かな、と入り口前の階段に腰をおろす。勢いで外まできてしまったらしい。
はぁ、とため息をついてうなだれた。
気持ちいいくらい天気は晴れなのに、ため息ついてる自分が情けない。
軽く頭を振って、よし!と意気込んで立ち上がる。
くるっと振り返って中に入ろうと足を踏み出すが、立ち上がった拍子にポケットから
ペンが落ちた。
慌てて拾おうとして―――――
「えっ?!ちょっ…ああっ―――!!」
ペンを掴んだのは良いが、体のバランスが崩れ前かがみになり……足が階段を離れた。
浮遊感が体全体を襲う。
(うそっっ冗談…ここ何段あると思ってるのよ!!)
あまりにショックで情けない出来事に声すらあげられない。
やっぱり厄日だ!
そう思った瞬間ガツッと硬い物に当たり、衝撃が伝わってくる。
思ってたよりは痛くなかったが、しかしそれはあくまで『思ってた』よりであって
痛くないわけではなかった。
「いたたた……」
「あ…そっか。ごめんなさい」
「え?」
頭のすぐ横で声がした。おかしく思って今の自分の状況を冷静に見ることにした。
するとどうやら落ちる途中で抱きとめてくれたのであろう事が理解できた。
痛かったのは――――ああ、なるほど。
痛かったのは、受け止めてくれた相手が鎧を着ていたからだ。
その鎧の彼がゆっくりと階段に降ろしてくれた。
後ろを少し振り返ると、たいして落下していないようだ。
鎧の彼はどうやら近くにいて、すぐに助けてくれたのだろう。
「ありがとうごさいました!おかげで無傷ですみました」
「いえ!痛いには違いなかったですよね。助けたボクがこんな格好じゃ…」
「とても助かりました。おかげで入院しなくてすみましたし…こんな事で入院していたら
笑い者ですからね」
苦笑しながら言ってみたが、本当に良かった。
もし入院などしていたら笑われるどころか、呆れられるかもしれない。
はぁ。またため息が出て、気分も重くなってしまった。気合いを入れたばかりなのに…。
「怪我がなくて…傷になることがなくて本当に良かったです」
女の人ですもんね、と優しく声をかけてくれた彼。
さっきまでの重い気分が嘘のように晴れていった。
何気ない一言、優しい言葉。
は自然と微笑んだ。
「私は・。地位は少佐です。名前を伺ってもよろしいですか?」
「えっ…―――――?」
「?」
自分の名前に驚かれてしまったので不思議そうに彼を見ていると、後ろから声がかかった。
「おーい、アルーー!!」
「あ、兄さん!…と、大佐と中尉も」
大佐という言葉にドキリとする。先ほどの自分はおかしかっただろうなと考えると顔を合わせづらい。
は振り返らずにいると、兄さんと呼ばれた子が何やら嬉しそうに興奮した様子で
鎧の弟に話しかけた。
「アル、ビッグニュースだ!!さっき人にぶつかったんだ」
「…?それがニュース?」
「だよ!そのぶつかった相手がさ!!大佐に名前聞いたから間違いないって!」
「「 え…? 」」
アルと呼ばれた鎧の彼がを見て、は自分の名前を嬉しそうに言った少年を見た。
この明るい金髪は確かに先ほどぶつかった彼のようで。
じっと顔を見ていると少年もこちらに気づいたようで視線が合った。
……アル?兄さん?……もしかして!
「うそっ!エド〜〜?!」
「!」
「やっぱりそうだったんだ…今、名前聞いて同じだなって思ったけど」
「アルなの?!うっそ〜大きくなってー!」
「はなんでここに居るんだ?」
「私?私は大佐の下で――――大佐?」
今思い出したかのように勢いよく振り返ると、ロイはホークアイと共に驚いたような顔をしていた。
…あちゃー。おもいきりはしゃいでいる所を見られてしまった。
よりにもよって、大佐に。
恥ずかしさで顔が熱をもつのがはっきりと分かった。
うつむいて体をつつつ…と少しアルの後ろに隠す。
ロイも我に返ったようで、エドに声をかけた。
「少佐とは知り合いだったのか」
「まぁね。小さい頃ちょっと、な」
含みのあるエドの言い方に、ロイの眉が少し動く。
(こいつ……)
「けどさ、少佐ってんなら結構ここに居るんだろ?なんで今まで会わなかったんだ?」
「ちょうどエドワード君達が来ている時に少佐がここを留守にしている事が続いたようね」
「うわっ、中尉ってのこと“少佐”なんて呼んでんだ」
出世してんだな、しょ・う・さ?などとからかい口調でアルの後ろにいるに声をかける。
それにカチンときたは後ろから出てきてエドに反撃する。
「う、うるさいな!好きで呼んでもらってるわけじゃないわよ!
…エドこそ私のこと少佐って呼ばなきゃね?」
「へへ〜ん、国家錬金術師は少佐相当の地位にあたるから同格なんだよど・う・か・く」
「〜〜そうですか、そうですか。エドは国家錬金術師になられたんですか。
それはつらい思いをされましたね!錬金術の腕前は伸びても身長が伸びないっ!
ああ…なんて切ないお話」
「てっめぇー!錬金術と身長は関係ねえだろっ!!わざと丁寧語で話すなキモイっ」
「悔しかったら私の身長抜いてみれば〜?それにキモイって何よ!
私、軍ではこれで――――」
はっと右手で口をおさえて再度固まった。その軍でよく傍にいる二人を振り向けずに居る
を見てエドはニヤリと笑った。
アルはその様子に“兄さん…”と苦笑するしかない。
「昔は結構?いや大分ギャーギャー騒いでさ〜あの時なんか―――」
「ちょっとエド!!」
慌てて口をふさぐと、エドはにっこり笑って
「俺たち、泊まる所まだ決めてないんだけどな〜」
「そ、そう?じゃあ家に来るといいですよ。つもる話もあるでしょうし!」
「いやぁ〜助かるなあ少佐」
アル、そういう事になったから。と爽やかに言い放つエドを恨めしげに睨む。
わざわざご丁寧に階級までつけてくれちゃってさ!
しかし、の家に泊まると聞いて黙ってないのがロイである。
「まちたまえ。君たちは今から宿を探せば良いだろう?
小さい頃『ちょっと』『何が』
あったかは知らないが、女性の一人暮らしに男二人は
どうかと思うが? 鋼の」
「だってせっかく知り合いが居るんだ。わざわざ金出してまで…なあ?
それに、別に良いんだろ?」
「えっ……う、うん…」
「ならば軍の施設を利用したまえ!少佐も…少佐も簡単に引き受けるな!」
「が
、良いって言ってんだから良いじゃん?…なんで焦ってんのかな〜大佐は?」
(くっ…またしてもこいつ…)
腹を抱えて笑いたいのをこらえ、本日二度目のたくみな笑顔をみせるエド。
笑っている顔がひきつってしまっているロイ。
その二人の様子にオロオロするアルと。
そんな4人を見てホークアイは口を開く。
「…良いのではないですか?本当につもる話もあるでしょうから」
「なっ…中尉?!」
「だよな〜そうと決まれば、荷物置きたいし案内よろしく」
「う、うん。ではマスタング大佐、少し出てきます…」
ぎこちなく一礼して3人は歩き出す。すると、エドは振り向いてショックをうけて立ちほうけるロイに
追い打ちをかけた。
「実はってオレの初恋の人なんだよな〜」
「 ! なっ………鋼の?!」
じゃあな〜大佐〜とケラケラ笑いながら去っていくエドを見て、
やられた…とつぶやくロイであった。
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