“ってオレの初恋の人なんだよな〜”
「…大佐に変なこといわないでよね」
「変なこと?」
「は、初恋がどうとか……」
「だって嘘じゃないし」
あたたかいひと [4]
「いつの話をしてるのよ!…そんな事、小さい頃に聞きたかった」
「ははっ、じゃあガキの頃は両想いだったんだ?また大佐に言ってからか――――」
「だ〜か〜ら!なんで大佐に言うのよ!?……自分がウィンリィになかなか会えないからって
人の邪魔しないでほしいね!」
「なっ…んだよそれ!あいつは関係ねぇよ!」
「まぁ二人とも落ち着いて…」
の家に着くなり言い合う二人にアルが仲裁に入る。
二人ともその言葉で言い合いをやめ、落ち着くように深呼吸する。
がお茶を煎れるからとその場を離れキッチンに向かった。
エドはふぅっと息をついて近くにあったソファに座り、あらためて部屋の中を見回している。
アルも同じように見て“変わってないね”と口を開いた。
「部屋の雰囲気。昔とよく似た感じだね」
「そうだな…あいつ、小さい頃もこんな感じの部屋だったよな」
本棚に並べられた様々な種類の本。落ち着いた色のソファ。
勉強机が仕事用のデスクに変わり、電話とラジオが置かれている。
物が少なすぎず多すぎず、均衡の保たれた落ち着く空間。
家具の種類も大きさも昔とは違うのに、雰囲気は全くと言っていいほど変わっていなくて。
ただ、昔にはなかった化粧台だけがあのころよりも年月がたっていることを主張しているように思え、もう自分たちはただ純粋に楽しく遊んでいた子供ではないんだと、現実を忘れさせないでいる。
「なによ二人して。成長が見られないって言いたいの?」
「違うよ!ボクも兄さんも、が変わってなくて嬉しいんだ」
「外見だけは変わったけどな」
「中身は変わってないって言いたいの?!」
「変わってなくて嬉しいって言ってるだろ!」
だいたい、そうやってすぐにひがんでくる所が変わってないんだよ!と顔をそらしながら言ってくるエド。
耳のあたりが少し赤くなっているのが見え、顔が自然とほころんだ。
二人の前だからね。そう言いつつ煎れてきたお茶をテーブルに並べ、自分もソファに座る。
「アルは変わったね。名前聞くまで誰だか全然分からなかった」
家の中なんだし、鎧ぬげば?
二人の表情(といってもアルの表情はいまいち分からない)が硬くなった気がした。
「えっと…筋トレなんだ!師匠のいいつけでね…」
「そっか。頑張ってるね」
「うん……」
「あ、エド達今日はもうここに居るの?」
「ん?ああ、いや?また出かけるけど」
「私、もう戻らなきゃいけないから…出る時は鍵していってね!」
慌てて立ち上がりバタバタと玄関へと向かうに、おう、と一言返事をするエド。
それを聞き届けて、玄関のドアを閉めた。
「何も…聞かれなかったね。良かった……」
「ああ…。巻き込んでたまるかよ」
大切な、幼馴染みだから。
もあいつも……巻き込みたくない。
エドの脳裏にリゼンブールに居るもう一人の幼馴染みが浮かんだ。
◇ ◇ ◇
長い廊下をかけてきて、ようやく司令部の扉の前についた。
気持ちを落ち着かせ、いざ入ろうと扉を開いた時。
「少佐はまだか?!」
「大佐、10分ごとに聞くのはやめて下さい」
開けたのと同時に大佐の苛々した声が飛んできた。
わ、私なにかしたっけ……と焦りながら扉を静かに閉めた。
「た、ただ今戻りました……」
「大佐ぁ〜、お待ちかねの人が帰ってきたっすよ」
「ん?あ、ああ……ご苦労だったな少佐」
「いえ…遅くなってしまいまして、申し訳ありません」
一つ咳払いして、大佐はねぎらいの言葉を述べた。
エドがあんな事を大佐に言ったせいで顔を合わせづらい。
…エドの初恋なんて大佐が気にするわけないか。
そう思うと少し気が楽になったので、さっさと自分の机に座る。……座ろうとしたのだが、腕を誰かに掴まれた。
「エドワード・エルリックとはどういう関係なんだ?! 」
「あ……の、大佐?」
「…ヤツの初恋の相手が君だというのは本当なのかね?」
「そ、そのようですね」
「!〜〜〜君はっ!鋼のをどう思っている」
「え……?」
大佐がおかしい……気がする。
そもそも、こんな所でする話ではないような…。
思ったのと同時に、周りの人の視線がこちらに集中しているのに気づいた。
は、恥ずかしい!…でも、なぜ大佐はそんな昔の話を気にしているのだろうか。
もしかして…いや、もしかしなくとも妬きもちなんだろうか?
でも、そう考えればつじつまが合う。合ってしまう。
「大佐はエドがお好きで……?」
(((( なぜそうなるんだよ!! )))) By.司令部一同 心の声
「〜〜〜君はっ……ちょっと来たまえ!」
「え?あのっ……」
掴まれていた腕を引かれ、隣の大佐の部屋へと移動した。
やはり大佐は何か怒っているようで、乱暴に扉を閉めた。
「……どうだね、初恋は君だったと言われた感想は」
「大佐?なにを仰って……」
「そして君も鋼のが好きだった。違うかね?」
「確かに…私も初恋はエドでしたが、でも」
「なぜ、私の前では本当の君を見せてくれない?」
エルリック兄弟の前での君が本当の君だろう?
大佐は静かに椅子に座った。彼の顔は私を見ていない。
も大佐から視線を外し、うつむいた。
「それは……」
「私が上司だからか?上司というだけしか見てもらえないのか?」
「ちがっ…!」
「嫌われていない自信はあったのだがな。しかしそれは、心を開いてはもらえていない…
差し当たりのないように話してくれていたという事なのか」
「違います!!…大佐は分かっていません!」
「言ってくれなければ分からないだろう?! 」
「っ………!!」
言葉が出なかった。
大佐の言った言葉に対してなのか、それとも彼の荒げた声に対してなのか。
思考回路が混雑していて考えがまとまらない。
なぜそんな事を聞かれるのか。なぜそんなに怒っているのか。なぜ……なぜ。
「…私だって……言ってくれませんと大佐が何をお考えなのか分かりませんよ……」
やっと出た言葉はとても小さくて。なんだか泣きたい気分になった。
今日はもう失礼しますと絞り出した声でそう告げ、早退の了解も取らずに部屋を出た。
大佐の顔は、見なかった。
「大佐。まぁ少佐もそうですが、確かに言わなきゃ分かりませんぜ?人の気持ちなんて」
「……そんな事はよく分かっている」
「なら、あとお二人がしなけりゃならない事なんて一つじゃないスか」
「…………」
扉に張り付いて中の様子を聞いていた面々のなかでハボックが、見てらんねぇ(正しくは、聞いてらんねぇ)というように扉を開けて大佐の部屋に入る。
その時他の面々も入ろうとするが、大勢居ても邪魔と言わんばかりのホークアイに閉め出されたのだった。
そして先ほどのロイとハボックの会話になる。ホークアイは黙って聞いていた。
その時、廊下側の扉がノックされた。が、中の返事も待たずにノックした主は入ってきた。
「うひゃ〜。すげー雨!おかげでびしょ濡れだぜ」
大佐、タオル貸してくんない?
喧嘩の原因(?)がそう言い放つ。が、場の妙な空気を察し、三人の顔を代わる代わる見て眉をひそめた。
もしかして、取り込み中…?そう問いたげな視線がホークアイに向く。
それを受けたホークアイは静かに口を開いた。
「いえ、なんでもないのよ。エドワード君はどうしたの?」
「あ…いや。たいしたことじゃないんだけど……居る?
オレ、今日遅くなりそうだから鍵を渡しておこうと……」
「なっ……鋼の!鍵を貸せっ」
「えっ?」
渡される前にエドの手から鍵を奪って部屋を飛び出した。
そんなロイを見てわけが分からないといった顔をするエドに、ホークアイがはもう帰った事を説明する。
ハボックは頭を掻きながら“ちょうど良かったかもな”と呟いた。
「は?! 何が?全っ然わかんねーんだけど……」
一人、わけが分からないでいるエドは二人に説明を求めていた。
まだ何も知らない
歳も
家族の事も
好きな物 嫌いな物も……
別に知らなくても良いとさえ思っていた
少しずつ うち解けていければ
ゆっくりゆっくり歩み寄っていければ
それで十分だと
そんな事は 後から知っていけば良いと
そう思っていた
急に知りたくなったのは
焦燥にかられたから
14も下の子供に妬いて
自分の事を棚上げして怒鳴りつけて
彼女を泣かせた
ずっと 大切にしたいと思っていたのに
廊下を走って怒られようが
土砂降りの雨で濡れようが
いつか車で君を乗せて送った道をひたすら走り続けた。
雨にさらしていた手袋が濡れていく。
私は今
錬金術も使えない、軍服を着た
ただの男だ。
大切にしたいと思っていた女性を傷つけた
馬鹿な男だ。
あの角を曲がれば 君に会える。
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